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結論を急がない人のための日本国憲法

【内容紹介】本書「率直の力---まえがきに代えて」より


 碌々ものを知らないのに、ものを考えてみる。そして言ってみる。これは一体に、わるいことだろうか?
 ものを言えば、笑われる/叩かれる/少なくとも唇が寒い。で、みんな大人になると、黙りはじめる。言うときは、慎重に言う。または冗談めかして、あるいは「わかる人にはわかるでしょ」というわけで、極端に洗練された、おそらくはつまり屈折した、言い方をする。
 いずれにしろ、防御を固めているのだ。
 そりゃ、僕だって、やたらに口かまびすしい奴は好きではない。「論争」なんて大嫌い。他人に言い勝ったり、多少の金や地位をもぎ取ることで、世間に勝ったつもりになるよりは、森に行って樹の葉を抜ける陽射しを眺めていたり、海に行って明るく冷たい風に吹かれている方が、心地好い。
 しかし僕は「悟って」いるわけでもない。この世にいる間は、この世のことにかかずらって、多少のあがきを見せたい気持ちがある。もちろん、自分のために。で、少し考えてみようと思った。
 みな、考えているのである。僕の同世代、30代前半の働き手たちは、それぞれの場所で、考えている。建築用の輸入特殊金物の、規格統一の可能性について。次々世代半導体の研究開発体制の、もっとも合理的なあり方について。自然環境と新しいバランスの関係をつくりうる、技術思想の定着をいかに図るかについて。話を聞いていると、刺激される。それぞれの世界では、彼ら彼女らは非常に創造的に考え、自信と夢をもって、雄弁に語る。政治や経済のことについてだって、党利党略がどうしたとか、A社の持株会社B社がこのたびC社をこうした、とかいったことについては、事情通がたくさんいる。
 ところが、憲法の話になると、どうしてみな口を噤んでしまうのか。いや、口を噤むのではない。言うことがないのだ。

 僕も、言うべきことを持っていなかった。その点で、僕はごくふつうの、日本の30代だったと思う。が、のちにるる述べる事情によって、日本国憲法とかかわってみることになった。その結果、僕は今や、ふつうじゃない日本の30代になったような気がする。
 それがいいことかどうかはさておいて、この本では、僕がふつうじゃなくなるまでのすったもんだを、できるだけそのままに記録してみることにした。だから、途中、実にブレているし、こむずかしかったり、読みづらかったりするところがある。とくに1章は、非常に読みづらい!
 ですから、この本を読んで下さる人は、はじめのうち、なるべく寛容でいて下さい。途中からきっと面白くなってくるし、最後まで読めばきっといいことがある、と思います。
 まあ保証はできないが。安全を保証できないサーカスをするところが、この本の特徴です。
 では、つきあってみて下さい

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