| |||
みんなの保育大学シリーズ8 胎児からの子育て 【内容紹介】本書「まえがき」より | |||
最近では、胎児医学、母子相関の研究が活発になって、ゼロ歳児の成長・発達をきめる要因が、すでに胎児のときにつくられている、ということがはっきりしてきました。 井尻正二先生が常日頃言われているように、個体発生は系統発生を繰り返します。人間の胎児は、人類が億年を費やしてとげてきた系統発生を、わずか280日で完了します。しかも、そのすさまじい胎内での分化の過程は、あらゆる障害から完全に防御されているとは、けっしていえないのです。 まず、母親の受けたストレスが胎児にひびきます。外界の音響も胎児に到達します。文明が生み出す環境汚染も、容赦なく無防備な胎児の脳をおびやかします。胎児はうろたえ、苦しみ、分化(個体発生)の道程に歪みが生じます。それによって、生まれてからの成長・発達の芽がつみとられるかもしれません。 「胎児からの子育て」が大切なゆえんは、そこにあります。本書では、その大切さを、できるだけわかりやすく解説したつもりです。保育に携わっている方も胎児を考え、一方では助産に従事する方もゼロ歳児の成長・発達を考えるきっかけが、この本を読むことでつくられれば、私の意図する目的は十分達せられたと言ってよいでしょう。 さらに、これからお産をしようとするご婦人とそのご主人、それに母親予備軍の女性とボーイフレンドにぜひ読んでいただきたいと思います。「胎児からの子育て」を知ることによって、生命の神秘さ、尊厳さに接することができるからです。そして、胎児は、暗くて、静かな羊水中で、すべての内・外の刺激から保護されて安穏に育ってはいないことを知っていただきたい、と思うのです。それによって新しい生命へのいとおしみが倍加されることでしょう。 | |||
【内容紹介】本書「はじめに」より | |||
障害児を世にふやさないためにも、どうしたらいいかということが、きょうの話の焦点になっております。 ご存じのように、サルの実験では、母ザルと、生まれたばかりの子ザルを隔離するという実験があります。3カ月あるいは5ヶ月間、母ザルから隔離した子ザルはいったいどうなるかといいますと、ほとんどの子ザルが自閉症みたいになる。つまり、檻にかえしてやっても、隅でじっとうずくまっていたり、ペニスをいじくっていたりするのです。情緒障害も起きて、呼び声にも元気がありません。人間でも、生まれてすぐお母さんから離れたり、カギッ子だったりした子どもには、自己を防衛する反応というのがありまして、悲しんだり、うめき声をあげたり、自己主張をするような大声をあげるという症状が、見られるわけですね。 つい最近も、自閉的な子は、テレビを見ている時間の非常に長い子に多いということが、ある雑誌に書いてありました。私は、テレビを見続けるという行為は、一種の社会隔離だと思っているんです。お母さんや兄弟との話し合いや、じゃれ合いや、遊びがなく、現実ばなれしたテレビの世界にのめり込んでいる。これはたいへんな社会隔離です。お母さんの行動がお手本ではなく、テレビのなかの血なまぐさい殺戮が手本となります。ですからそういう子に自閉症状が出ても、あたりまえです。それから、3カ月ではなく、5ヶ月以上社会隔離してますと、回復不能な自閉症や情緒障害の強い、いわゆる人間の世界でいわれている施設病というような、もはやもとには戻らない状態になるということが、サルの実験ではっきりしているわけですね。3カ月隔離のサルは回復するのに長いことかかっても、ふたたび檻のなかの群れと同じようにふるまうことができるようになりますが、5ヶ月以上の長期隔離の子ザルは群れに戻しても回復不能、エサも食べず、死を待つだけという経過をたどるのもいます。 それから、もうひとつ大事なことは、……いままでのお話はゼロ歳児、つまり生まれてから、子どもがお母さんから離れることなんですが、妊娠中でも、「子宮内母子分離」という奇妙な言葉があります。子宮内母子分離というのは確かに変な言葉で、おそらくみなさんは、赤ちゃんをお腹のなかに持っているのに分離するわけないと思うでしょうが、さにあらず、いろいろな形で母と子が分離している証拠がある。その証拠をこれからのお話で、みなさんにお見せしていこうと思います。この「子宮内母子分離」こそが、生まれてからはっきりとあらわれてくる情緒障害などをもつ子どもを生む原因になっています。 スイスの有名な動物学者のポルトマンが言っているように、人間の赤ちゃんは、生まれた直後は未熟なのです。生理的に早産するというわけです。したがって、子宮内で母と子が分離していると、未熟で生まれてくる子の未熟さをさらに倍加するような結果を生むわけです。 生まれた子どもの未熟の度合いをさらに強めている一因として、現在のお産の形があります。現在のお産というのは、医療があまりにもかかわりすぎたために、かけがえのないものが失われて、非常に不自然なお産になっております。その不自然なお産が、未熟児をさらに超未熟化して、さきほど申し上げたような、自閉症や情緒障害をともなった子どもを生む結果になっている。きょうは、そういうことを中心にしてお話いたします。 | |||
トップページへ |