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メコン河開発 21世紀の開発援助

【内容紹介】本書「あとがき」より


 私が本書を通じて投げかけたかったのは、一般的なダムに対する批判でもなければ、環境問題でもない。もちろん、メコン河流域のダムの乱開発を検証し、問題点を提起するという目的はあったが、それと同じぐらいに、開発援助のプロセスの問題を、メコン河のダムを通じて取り上げたかった。
 私がラオスにいた4年あまりの間、日本国内では沖縄の米軍基地や、新潟県巻町の原子力発電所の建設、などをめぐって、住民投票条例の制定などを通じて、地域の将来はそこに住む自分たちで決めたいという声が強く表に出始めていた。開発援助の現場でも、まさにその点が重要になってきているのではないかと思う。その代表的な考え方が、住民参加だったはずではないだろうか。開発の主体者は住民であり、その参加が不可欠だからであろう。
 本書の中で、住民参加と動員の違いについて触れた。政府による開発計画があり、それに住民を「参加させる」のは、動員である。住民参加とは、住民の思いが行政や援助団体を動かし、そこに住民が参加することではないだろうか。現実はどうか。住民主体の開発どころか、相変わらず開発援助は、政府やコンサルタント会社、さらには援助団体のものであり、住民参加は、手法やテクニックとなって、いかに住民を動員できるかという技があちこちで披露されている。本書のいくつかのダムの例を見てもわかるように、こうなるとほんとうに住民参加という理想は実現できるのかと疑問に思うようにすらなる。
 持続可能な開発ということばが使われるようになって10年がたった。今では日本政府も、開発援助の柱に据えるようになった。しかし、本当に日本の開発援助は、持続可能な開発を目指しているのか。いやその前提となる日本国内の開発は持続的なのか。そもそも持続可能な開発という概念は、達成可能なものなのか……。メコン河流域のダム開発を通じて、そうした点を考える糸口になればという思いで本書を書いた次第である。
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