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熱帯雨林で私がみたこと

【内容紹介】本書「訳者あとがき」より


 熱帯雨林の急速な破壊を含む、大規模な環境問題が脚光を浴びること事態は、たいへんけっこうなことである。多少、取り上げ方がセンセーショナルであったりもするが、ほんの数年前まで、熱帯雨林の破壊問題は、すくなくとも日本ではほとんど問題にされなかったことを思えばずいぶん変わったものだと思う。かくいう訳者も、この問題について知ったのはそんなに昔のことではないから、人のことはいえない。ただ新聞、雑誌やテレビでの報道は、紙面や時間の制約があるとはいえ、問題の概略を多少とも知っている人には物足りないことが多い。熱帯林の破壊問題が生態学、生物学、農学、気象学、さらには人類学や社会学などの知見を必要とする、たいへん奥の深いものだけに、ダイジェスト的な説明ではわかりにくい面がある。かといって、やたらに専門用語を使って解説されても困る。その点で本書は、相当突っ込んだ議論をしながら、文章が平易で具体例に即しているので、熱帯雨林の問題について少しくわしく知りたい人にすすめられる一冊である。原著はイギリス、米国各紙の書評欄で好意的な評価を受け、ベストセラーとなった。
 一読すればわかるように、本書はジャーナリストが陥りがちなセンセーショナリズムや性急さと無縁である。見たまま、聞いたままを淡々と書き連ね、事実をして自ずと語らしめる、そんなスタイルをとっている。著者はそのために3年間、熱帯雨林に分け入り、住民の声を聞き、足で歩いて取材を重ねた。熱帯雨林がどういうものなのか、体験を通じて丸ごと理解しようとしているので、森が生き生きと描かれている。これは本書の大きな特色のひとつであろう。
 第2に、熱帯雨林の破壊が、そこに昔から住んでいる人々にもっとも大きな打撃を与えることを強調しているのも、特色として挙げられる。熱帯雨林がこのままのペースでなくなっていけば、気象異変や海面上昇など、地球規模の問題が出てくることが予測されている。熱帯雨林そのものは、開発途上国に集中しているが、その破壊の影響は先進工業国にも等しく及ぶというので、欧米各国をはじめ、日本なども遅まきながら対策を検討するようになったのである。しかし熱帯雨林にもともと住んでいた先住民にとっては、森林の破壊はただちに生存を脅かすものである。このことが、先進工業国、開発途上国を問わず、まことに軽視されてきたことを著者は指摘する。そして逆に、何千年にもわたって熱帯雨林という非常に脆弱な環境に住みながら、生態系のバランスを崩さずに作物を育てたり、有用な動植物を見分ける高度な知識・技術をもつ先住民から、学ぶことがたくさんあるはずだとしている。いわゆる「開発」が、だれのため、何のために行なわれるのかが、本書で問われている。
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