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「ただの虫」を無視しない農業

桐谷圭治[著]

2400円 四六判 200頁 2004年3月発行 ISBN4-8067-1283-3


残留農薬が問題視され、
食の安全性を希求する声の高まりとともに
減農薬や有機農業がようやく定着しつつある。
本書では、20世紀の害虫防除をふりかえり、
減農薬・天敵・抵抗性品種などの手段を使って
害虫を管理するだけではなく
自然環境の保護・保全までを見据えた
21世紀の農業のあり方・手法を解説する

書評再録 読者の声
宇根 豊(農と自然の研究所代表)氏評

  この人のすごさは半端ではない。この人の情念は衰えることなく、もう50年も続いている。時代は、ついにこの人を越えることはないのかもしれない。この人が40年前に提唱したIPMがやっと農水省の「環境政策の基本方針」にも明記されているが「防虫ネット等を用いた物理的な防除や、天敵等を用いた生物的な防除などと、化学合成農薬の使用低減とを組み合わせた」ものが、IPM(総合的病害虫群管理)だと言うのだから、赤面する。この人はIPMを「害虫をただの虫にする技術だ」と表現する。この二つの表現の深度の違いには、唖然とする。手段は「まなざし」を付加されないと、技術にはならない。
 この人はレイチェル・カーソンの『沈黙の春』を、1964年にカルフォルニア大学の生協で手にしている。そして、1974年に高知県で、BHCを環境への影響を根拠に追放した。国に先駆けること2年、環境の世紀は日本でもこの人によって扉が開けられた。1978年、この人はIPMの精神を「減農薬」という言葉として造語し、発信した。それが『害虫とたたかう』(NHKブックス)だった。この本はベストセラーになり、多くの若い研究者や指導員に衝撃を与えた。しかし、この戦後史上に残る名著は今では絶版だ。
 そこで、この世界的に高名は昆虫学者は、75歳にして、日本の農業の未来を指し示す本を執筆した。学者らしく端正な筆運びの行間に、またしても熱い情念がほとばしるところがある。それにしてもこの本の書名は、黙示録的だ。『ただの虫を無視しない農業』(築地書館)を、私たち百姓は目指したい。国民もそういう農業を支えてほしい。
 技術は、精神性の深さを湛えてほしいものだ。戦後、この国の農政や農学や農民運動がもっとも不得意な世界を、再興する理論の書が書かれた。この人の名は記憶に留めてほしい。桐谷圭治という農学者をもった喜びを、いま噛みしめる。
(日刊『協同組合通信』書評より)

【主要目次】

まえがき

第沛ヘ 農業の将来
  世界の人口、農業、環境
  アジアの農業環境と稲作
  アジアにおける稲の病害虫防除
  アジアにおける農薬汚染
  一石三鳥の被害許容水準
  緑の革命−−稲の新品種
  総合的有害生物管理(Integrated pest management:IPM)
  日本農業への期待−−水田の多面的機能
  総合的生物多様性管理(Integrated Biodiversity Management:IBM)

第章 化学的防除の功罪
  化学農薬依存への反省
  BHCの環境汚染
  BHCの使用禁止−−IPMへの第一歩
  農薬の負の遺産(1)
  農薬の負の遺産(2)
  農薬の選択的毒性
  もし農薬がなかったら
  減農薬の試み
  減農薬の理論
  減農薬の実践
  ニカメイガの減少−−無意識のIPM

第。章 有機農業の明暗
  自然の加害者から保全者へ
  有機農業とは
  有機農業への期待−−日本
  有機農業の隘路
  有機農業の未来

第「章 施設栽培の生態学
  農業生態系と害虫相
  世界3位の施設園芸国
  施設の害虫相
  施設の害虫管理
  生物的防除を基幹にしたIPMへの移行
  IPMの決算
  地球温暖化を先取りする施設栽培

第」章 総合的生物多様性管理(IBM)
  生き物を育てる機能
  IBMの理論
  水田のIBM
  IBMを実行するための基本的考え

あとがき
参考文献
害虫防除の年譜
節足動物、センチュウの和名・学名の一覧
索引