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地獄蝶・極楽蝶

【書評再録】


●日本経済新聞評(1992年7月19日)=蝶の生態を解き明かすのではなく、民俗や文化、歴史とのかかわりを書く。蝶マニアは少なくないが、こうした民俗学的な接近は珍しい。
蝶にまつわるさまざまなエッセーを収録。疑問・不思議を追いかける。

●東京新聞・中日新聞評(1992年8月9日)=蝶と人とのかかわりを追求。伝承の中の蝶、武士の精神構造と蝶、映画の中の蝶など、蝶の魅力を表現した内外の興味深い事例を、多方面にわたって収録している。

●エコノミスト評(1992年10月13日号)=平和、長閑、華麗、妖艶、さらには不安、不吉---人々が蝶について抱くイメージは多彩である。それだけ人と蝶とのかかわりの深さを示している。蝶マニアの著者が志向する「蝶の民俗学」の根源は尽きそうにない。

●日刊ゲンダイ「週末に読みたい本BEST4」(1992年7月25日)=蝶をめぐる森羅万象についてのエッセー集。

●電気新聞「焦点」(1992年7月20日号)=著者の基本思想は、徹底的な「蝶と人間のかかわり」。蝶を通じて、あたかも、ホログラフのように、人間の業、因縁、宿命的なものを、立体像で描く。神秘の歴史の中に埋没している何かを、引き出してくる▼カラスアゲハ、アゲハ、キアゲハ等を、岐阜県今須地方では、明治時代まで「極楽蝶」と呼んでいた。上総、下野鹿沼地方には、大型アゲハ蝶類を、「ぢごくてふ(地獄蝶)」と呼ぶ方言があった。蝶が現す不吉な影、蝶が象徴する死者の霊、冥界の使者、といった連想からの「ぢごくてふ」であろうと著者は説く▼しかし不吉な呼び名は楽しくない。呼びたくもない。「ぢごく」よりは、「ごくらく」と反対語で呼ぶ方がいい。こうした語の転化を追求していく。綿密かつ論理的なアプローチを、精緻な文章で書いている。アンケートも全国的に行って情報の収集もした。そしてついに、戦国時代、織田信長に行き着く。▼鉄砲が剣馬を破った歴史の転換点、長篠の合戦では夥しい人命が失われた。そこは流血の地である。「三河物語」を読み、無常観と蝶の持つ儚い精霊と、武士兵士たちの死生観が合体して、独自の地獄蝶・極楽蝶の呼称派生を推論する。信長の蝶の紋羽織、武将たちの揚げ羽紋の旗指し物、など数々の例証をあげていく▼今井さんの分析は緻密で粘りがあるほか、誰が読んでもよく分かる。手持ちの膨大な資料に基づく論考の深さは、いつもながらである。

●赤旗評(1992年7月20日)=蝶のイメージ歴史的に。
岐阜県周辺で極楽蝶と呼ばれた黒いアゲハ蝶は、関東中部で地獄蝶と呼んだ蝶と何か関係がある、と直感してからの調査が本書の中心です。蝶にまつわる遊戯「投扇興」、映画のなかの蝶、蝶にこだわった画家の話などもあります。
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