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森と人間の歴史 【書評再録】 | |||
●朝日新聞評(1991年3月10日)=熱帯雨林の破壊が大きな問題になっているのは周知のことだが、森林荒廃は温帯林や亜寒帯林にも及んでいる事実は意外に知られてはいない。森林問題は当然地球的規模で論じられねばならない。しかしそのためには、地球全体でどれくらいの森林があり、どんな速度で伐採が進行しているか、また、歴史的、政治的、経済的な現状分析から森林荒廃の抑止策をどう考えればよいか、こういった諸問題を資料に基づいて考察する必要がある。言うは易く、行なうは非常に困難な問題だ。ウェストビーは長年FAOの林業局に勤め世界各国の林業政策と援助を担当した人で、この問題に発言しうる数少ない一人であって、グローバルな視野の中での議論は森林問題に関心を持つ人には必読の書である。 森林資源の利用、保全、再生に関する豊富な体験と資料からの提案は大変有益だ。 死を前にして書かれた本書は、著者の熱い想いと悲願が伝わってきて、最高の知能と最大の愚かさを併せもった動物への慨嘆とともに、明日の希望への行動と情熱をかきたてられる。 ●朝日新聞評(1992年4月5日)=森林と人間のかかわりを、人類の起源から現代まで俯瞰している。環境の変遷から歴史を眺めるのは、新鮮でもある。 ●日本経済新聞評(1991年1月6日)=多くの人びとが森林と調和して生活している例があり、逆の事例も見られる。決定的なインパクトを与えるのは「人間の数ではなくて人間社会が組織される方法である」と著者は主張する。 著者は英国生まれのエコノミストで、長くFAOで森林政策と援助問題を担当した。「社会林業」の提唱者として知られたが、本書執筆直後の1988年に世を去った。人類と森林とのかかわりを歴史的な眼で語る文脈は確かである。 ●読書人評(1991年2月25日)=森林の生態学、森林の経済学、森林の政治学の入門テキストとして読むことができる。森林学という未知なる領域に足を踏み入れる者にとって、道案内人をつとめてくれるのがこの本であると言ってよいだろう。 ●信濃毎日新聞評(1995年8月20日)=温帯と熱帯の双方を視野に入れて、森林破壊の歴史を通覧している。そして、森林消失を人口増加のせいにしている単純な考えを否定して、森林の利用をめぐる人間の組織、すなわち社会システムに原因があるとし、森林問題は、それぞれの地域固有の解決方法を必要とするローカルな問題であるとしている。 ●西日本新聞評(1991年1月27日)=著者は経済学者として英国商務省に勤務後、1952年から1974年までFAOの林業局に勤めた。その間、林業の政策問題と開発援助とを担当した。したがって、国際的な森林・林業問題に造詣が深く、社会林業の提唱者としても有名である。 著者は、地球の森林のかかる窮状を救うべく、世界の為政者、市民等すべての階層の人びとに、森林の消失と人間のかかわりとの実態を知らしめようとしている。 ●林業技術評(1991年1月号)=グローバルな森林消失が世界の関心を集めている。森林はなぜ壊されていくのか。森林を守るにはどうしたらよいか。この二つのことが今日ほど切実に問われている時代はほかになかったであろう。今回訳出されたウェストビーの著作は、世界の森林と人間との歴史的なかかわりを踏まえてこの問いに答えようとしたものである。そして、ジャック・ウェストビーは望み得る最適任者であったと思う。長年の国連機関での勤務を通して各国の事情に詳しく、かつ世界の森林・林業問題を歴史的な文脈でとらえるだけの確かな史観を持っていたからである。 本書の原題は「世界林業入門---民衆とその樹木」となっていて、一般の人たちにも読みやすい文章になっている。しかし、決して平板な入門書には終わっていない。むしろ、鋭い問題提起の書というべきであろう。 熱帯林の保全と持続的利用を図るうえでわれわれは何をなすべきか。本書からいくつかの有益な示唆を読み取ることができるであろう。一読をおすすめしたい。 ●林業経済評(1991年8月号)=今日の熱帯林問題をはじめとする森林問題に関する論議は、より広いパースペクティブの中で、森林と林業と人間との関係を捉え直すことから始めなければならない。その際に最も大切になる歴史的な視点を与えてくれるのが魅力的な題の本書である。 樹木の起源と人類の誕生まで遡り、そこから現在にいたる森林と人々の気の遠くなるほど長い歴史を、限られた紙面の中で、わかりやすい言葉で語りかけてくれる。「民衆と森林」に対する「温かい心情」に裏打ちされた著者の願いが、レトリックに逃げない素直な文体で描かれていく。 ●農林水産図書資料月報評(1991年4月15日号)=著者、故ジャック・ウェストビー氏は1952年から20数年間、FAOの林業局で世界各国の森林政策と援助問題を担当し、その後は世界の森林問題の研究と著述に専念した人である。グローバルな視点から森林問題を解説できる最適の人である。 さらに著者は、イギリス生まれのエコノミストであったから、森林問題をその地域の社会経済的な問題と絡み合わせながら、歴史的な視点から解説することに成功した。 本書は訳者のつけた表題どおり「森と人間の歴史」を、生国イギリスを中心にヨーロッパ、またヨーロッパ諸国の熱帯林への侵入の歴史を、個別具体的に記述しており、読み物としても興味深い。 それだけではない。本書のそもそもの表題「Introduction to World Forestry」の通り、樹木とその働き、森林の成り立ちと種類、森林からもたらされる有形、無形の恩恵とその有効活用、持続的利用のための経営システム等、林学の主要教科を専門用語をほとんど用いずに解説しているところに特色がある。 訳者、熊崎実氏は国際的な森林・林業問題の第一人者であり、著者ウェストビーの最もよき理解者でもある。訳文は実に流暢な日本語によって構成され、自ら中味に引き込まれてしまう。本書を読みつつ、筆者は世界史がこんなに面白いものかと痛感した。何故なら、面倒な年号や人名、地名を覚える苦痛に妨げられることなく、純粋に森と人間との結びつきに接することができたからである。 そのような意味で本書はフォレスターやナチュラリストとともに、森林問題に関心を持つ人たちにもおすすめしたい教養書でもある。 | |||
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