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温暖化に追われる生き物たち 生物多様性からの視点 【書評再録】 | |||
●朝日新聞「天声人語」(1997年12月1日)=不器用な彼らの未来をさまざまな研究者が紹介している▼ウミガメは砂浜で産卵するが、砂の中の温度が29度より高いと生まれる子はメスに、低ければオスに偏るそうだ。4年前の冷夏では、愛知県の渥美半島でふ化したすべてがオスで、猛暑の翌年は全部がメスだった。温暖化は雌雄のバランスを崩す。そもそも海面の上昇で、砂浜が減る▼ナガサキアゲハの北限は九州と南四国だった。それがこの60年ほどで三重県まで上がった。トンボの北上も世界中で報告されている。だが、北国で南国の昆虫を楽しめるようになる、と考えるのは夢物語のようだ。都市のコンクリートや緑の分断が、北上の進路をさえぎる。えさになる植物も、虫とともに移動してくれない▼つまり、すみかを変えられない生き物は温暖化に弱い。湖の魚も同じだ。人間についてまわるネズミやゴキブリは強そうだ。想定されている気候変動は、人間も含めた地球の生き物にとって、経験したことのない速さで訪れる。自然界の調和は当然、崩れる。それが壊滅的な打撃となるのかどうか、十分な予測はできない。
●朝日新聞評(1997年11月30日)=生物多様性の保全の立場から20人の研究者が論じる。用語の解説をつけるなど、高校生以上ならば理解できる。 ●日本経済新聞評(1997年11月30日)=地球がこのまま温暖化すると2100年には平均温度が2度、海面は65センチから1メートル上昇するという。本書は生物学者ら22人の専門家が個々の生物への影響などを検証する。 ウミガメの性は産卵場の砂の温度に影響を受けるため、温暖化でメスの比率が高まる。気温の上昇は病原体の増殖を助長し、人間社会でも感染症が増える。地球上の1億を超えるといわれる生物種のうち人間が認識しているのは1%程度に過ぎず、他の生物が絶滅することの影響ははかりしれない。 ●東京新聞評(1997年12月7日)=堂本暁子・参院議員と岩槻邦男・立教大教授が、開催中の地球温暖化防止京都会議に向け研究者20人のフィールドからの報告をまとめた。 子孫のために知っておきたい事実の集大成。 ●山と渓谷評(1998年2月号)=温暖化が動植物にもたらす影響を検証する。 すべての想定が、温暖化によると検証されたわけではないが、すでに起こっている現象に基づいており、単なる空想ではない。 ここに綴られた最新の知識、情報そして想定は「温暖化を食い止める行動を急げ」という重大な警告として受け止められよう。 ●日経サイエンス評(1998年3月号)=地球温暖が進んでいるといわれている。局地的な気象の変化や、農作物への影響を論じた本は多いが、この本のように、徹底して「生物多様性」にこだわった本は類書がない。 事態の深刻さを受け止めたい。 ●野鳥評(1998年2月号)=地球温暖化が動植物に与える影響が、ウミガメは高温化で発生するとメスばかりになるといったわかりやすい事例を織りまぜながら、多分野にわたる研究者によって語られる。用語解説も親切。 ●バーダー評(1998年3月号)=温暖化は、「私たちの子孫の時代……」などとのんきに静観していられる問題ではなく、影響はもう出始めている。本書には、冷涼な環境に生活する動物たちの行動圏がすでにより高標高地に移っている、渡り鳥の越冬地も北方へ偏りつつあるなどの実例が多く示され、影響を目の当たりにしている人たちの強い危機感が伝わってくる。 ●私たちの自然評(1998年3月号)=「温暖化? カンケーないわ」といっている人にこそまず手渡したい。あなたの愛する自然が、動物が、地球が今、私たちの手で葬られようとしている関係性が分かるから。 ●教育新聞評(1998年1月12日)=地球が温暖化すると生物たちはどうなってしまうのか、広い観点から予想をし、あわせて警告をしているものである。 このままでは地球はどうなってしまうのだろうか。そんなことを考える上でも本書はたいへん参考になる1冊である。 ●日刊ゲンダイ評(1998年1月5日)=地球の温暖化は、すでに生物にさまざまな影響を与えていると警告を発するリポート。たとえば、チョウの世界では大柄で派手な色彩の南方系の種が北にどんどん進出している。ナガサキアゲハは亜熱帯を中心に分布している黒色のチョウで、日本では従来、九州、南四国が北限だったが、現在では大阪、三重にまで広がり生息している。 植物では、東京でさえヤシの仲間のシュロが自然に生えてくるようになったなど、温暖化が生態系のバランスを崩していることを詳細に報告している。 ●遺伝評(1998年2月号)=自然科学の立場から検証し、さまざまな生物現象の実例の中から、迫りくる温暖化とその結果として予想される、(あるいはすでに進行しつつある)生物相の変化を具体的にレポートすることで、読者に地球環境の危機的変化を訴え、警鐘を鳴らそうとしたものである。 マスコミが書き立てるセンセーショナルなキャンペーンよりははるかに強い説得力をもつ。 | |||
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