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風の言葉を伝えて=ネイティブ・アメリカンの女たち

【内容紹介】本書「はじめに」より


 アメリカ大陸の先住民、ネイティブ・アメリカン。彼らのイメージは、西部劇の中で頭に羽根をつけ「善良な」開拓者を襲う「野蛮人」から、大地との調和を重んじる独自の文化を太古から築いてきた民族へと変わりつつある。さらに西欧をはじめ日本でも、危機に立たされる地球環境問題や「心の癒し」への答えをネイティブ・アメリカンの教えに見つけようとする動きも広がっている。この流れの中で、彼らに関する理解が深まると同時に、誤解が生じたり、見当違いの期待がネイティブ・アメリカンにかけられるようになったのも事実だ。
 本書は、ネイティブ・アメリカンの社会を陰で支えてきたネイティブ女性のライフ・ストーリーを通じて、現代ネイティブ・アメリカンの世界をありのままに伝え、彼女たちが秘める力と人間性に触れさせてくれる。芸術家、活動家、教育者、治癒者。大地に根ざした哲学に支えられ様々な役割を担う女性たちが、それぞれの人生の歩みを通じて、先住民、女性、母親、祖母、指導者、そして地球の世話人であることについて語る。
 今までアメリカ史といえば、総じてコロンブスの大陸「発見」からヨーロッパ人の移住、米国の建国、移民の歴史という流れでしかとらえられてこなかった。ネイティブ・アメリカンの歴史は、ヨーロッパ人の到来を遡ること数万年の歴史であるという事実も広く認識されてはいない。口承で伝えられてきたネイティブ・アメリカンの歴史と、研究者が発表する歴史とでは大きく食い違う点も多い。また、ネイティブ・アメリカンの文化、哲学、宗教、歴史などが紹介される場合も、ネイティブ以外の言葉で語られることがほとんどである。メディアを通じて発信される情報やイメージは、あくまでも人びとが求める「インディアン像」であり、複雑な歴史と現実を生きてきた彼らの本当の姿だとは言いにくい。とりわけネイティブ女性のイメージはメディアによって大きく歪められ、彼女たちが私たちと同じ等身大の女性であることはあまり伝えられてこなかった。
 そんな背景の中、本書でその思いを語るネイティブ女性は、誰もがたくましい。個性や表現方法は違っても、「大地と、人間を含むあらゆる動植物は皆つながっており、1つの聖なる輪をなしている」という共通の哲学が一人ひとりの心に深く根ざしている。彼女たちは、人間はこの聖なる輪のほんの一部でしかないということを念頭に、輪の調和を守るのに必要な選択を行い、行動している。そこには単に環境保護運動や、民族運動として片づけられてしまうことを拒む何かがある。アメリカという現代文明を象徴する国で、彼女たちは「アメリカン・ドリーム」を追うのではなく、大地に根ざした哲学と生き方を誇りをもって貫き、分かち合い、決して諦めようとしない。
 ネイティブ・アメリカン女性は何世代にもわたる虐殺、抑圧、差別の歴史を背負いながらも、堅固な精神、静かな優しさとユーモアを祖先から受け継いできた。それゆえに彼女たちが抱く「創造主の世界」との深い絆、7世代先の子孫に豊かな地球を残そうとする信念と行動には迫力がある。その生き方は民族を越え、人として、地球人としてのあり方を伝えているかのようにも思える。21世紀を目前に、様々な変化の渦中に立つ私たちがネイティブ・アメリカン女性のライフ・ストーリーに大きな希望を見いだせることを願わずにはいられない。
風の言葉を伝えて=ネイティブ・アメリカンの女たち

【内容紹介】本書「著者まえがき」より


 原稿はテープに収められた彼女たちの言葉をそのまま反映している。彼女たちの要望により、場合によっては文法的な修正や、脱線部分を省いたり、要約したり、関連する部分をまとめ、それぞれの語り手の言葉、考え、特徴を正確に残しながら、読みやすい文になるように努めた。話の内容にさらなる説明が必要であったときは可能なかぎり彼女たちに問い合わせた。また、外部からの視点を追加するため私個人の観察を挿入した部分もある。最終的には原稿をそれぞれの女性に郵送するか自ら届けた後、必要な修正を行い、彼女たちの承認を得た。
 この最後のステップは最も重要な部分である。ネイティブ女性は単なる「情報提供者」でもなければ、エキゾチックな世界の遺物でもない。彼女たちの話は博識の解説者による解説や改ざんを必要とはしていない。私は彼女たちの話を正確に伝える道徳的な責任を感じていた。
 ネイティブ・アメリカン女性に関する「真実」を探ろうとする読者はその答えをこの本にも、他のどの本にも見いだすことはできないだろう。しかし、本書を通じて、森の中の部族学校や「シスター・スクール」、プエブロから北極、過去から現在を訪ね、未来への展望に耳を傾けていただきたい。次第に万華鏡のように変化する視点や、多様な色彩を通じてネイティブ女性たちの生き様が照らし出されてくると信じたい。
 本書の中でネイティブ女性たちは自己の内面の奥深くを探り、自分が誰であるか、そしてどこに向かっているのかを分かち合ってくれる。彼女たちの声に慎重に耳を傾ければ、彼女たちの魂が歌い、癒されていることが分かるだろう。世界中の悲しみを少しでもやわらげ、世界の子どもたちが、この地球上で幸せに暮らしていける術を彼女たちは教えてくれるかもしれない。
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