書誌情報・目次のページへ 書評再録のページへ 読者の声のページへ
みんなの保育大学シリーズ5
脳の発達と子どものからだ

【内容紹介】本書「はしがき」より


 人間の脳は、自然がつくりあげた傑作といえましょう。それは地上最高の生物機械です。この機械は、赤ん坊が産声をあげたときには、ほとんど配線は終わっているのです。しかしこの機械を動かすには、約20年もかけて手入れをしなければなりません。この手入れの仕方でよい機械にも欠陥機械にもなるのです。すぐれた芸術作品をつくる人や、科学技術の発明・発見をする人はすばらしい機械につくられた人たちです。また狼少女の“アマラやカマラ”、アベロンの野生児は悪い機械につくられた人たちです。外の環境から与えられる刺激と、それにたいする生物機械からの働きかけで、2つとして同じでない生物機械となるのです。
 この生物機械は、自身の機械をよくすることも悪くすることもできる力をもっています。この力の基礎に第1にシナプスの可塑性があり、第2に物質的な裏づけがあること、第3にさらに生後2年間の訓練の大事なことを強調しました。
 私の考えは要約すると、「脳の働きかたの規則にしたがって子どもを育てよ」ということで、神経生理学的育児法と名づけてよいでしょう。
 最近の神経科学の研究では脳の発達のことや脳の高次な機能についてもある程度わかってきたので、従来の経験をもとにした育児法に、脳のほうからの接近もできると私は考えていたのです。
 近ごろは3歳児保育や0歳児教育が強調され、保育が過熱気味です。保育の通信教育もおこなわれています。保育の必要な根拠としてよく引用されるのが、ニューロンの樹状突起の成長が幼児期または胎生期にみられるという事実です。
 ところが、その引用には樹状突起が成長するという話はあっても、なにをしているのか説明がないのがふつうです。脳の生理学や解剖学の知識がまちがって引用され、幼児教育の必要性の根拠として使われています。このような風潮を日ごろから、にがにがしく思っていました。本書ではそのような誤解がおこらないように注意ぶかく書いたつもりです。
 本書を読まれて、生後2ヶ月目から2歳児までの教育の大切さをおもうあまりに、親が一方的に教え込むのに熱中するのは、たいへん困ります。これから育つ子どもが、将来豊かな感性と適切な価値判断力とをあわせもつ人間となるよう、成長の段階に応じて教え、子どもの自発性を伸ばすようにして個性ある人間をつくることが大切であると書いたつもりです。単なる教育競争・詰め込み教育にならないようにしたいものです。外からの刺激にたいして適切な行動のプログラムをつくり、適切に行動できること、つまり前頭前野の訓練が大切なことをくり返しました。他方、脳の発達には体の健康も大切なことで、心臓血管系を強くして体力づくりも重要なことも強調しました。
 本書が保育に役立つことを願っています。
トップページへ