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きのこの生物学シリーズ8
きのこと動物

【内容紹介】本書「はじめに」より


 この本はどこから読んでいただいてもよいが、構成は次のようになっている。
 1〜3章では、動物ときのこの関係を〈食う・食われる〉の観点からみる。菌食の意味やきのこの見方について議論を深めたい。第2章では、昆虫と菌類の共生もあつかう。ここであつかうほかにも共生現象は存在するけれども、その菌類は「きのこ」の範囲をはずれるのでふれない。同じ理由で、水生動物と菌類の関係にもふれない。かといって、「きのこ」の範囲をはずれることをすべて排除したわけではない。この、本書前半部分は、元来私の関心外だったので、消化不良のところがあろうと思う。
 4〜6章では、動物の生活の後始末、すなわち排泄物や死体分解と菌類との関係をみる。第4章の後半以降はほとんど私自身の研究紹介のようになることをおことわりしておきたい。その部分は、過去25年ほどの間に見出されたことで、私以前にはほとんど知られざる世界であったといってよいだろう。素朴で、前世紀までにわかっていてしかるべき話ばかりだと思われる向きもあるかもしれないが、これが菌類をめぐる学問ないし地下生物学の現実である。くどいところもあるかもしれないが、ひとつの菌類生態学的研究がどのように行われたかもみていただけるのではないかと思う。
 7章では、複雑にからみあう自然を、共生、菌食、窒素などの面から再度のぞいてみる。力不足ではあるけれども、生き物はいうにおよばず倒木や糞にいたるまでの、すべての存在の尊さを感じ取っていただけるのではないかと思う。ヒトの影響についてはふれないが、ヨーロッパではそれによって絶滅に瀕している菌類があるとの議論が起こっている。
 まえがきに書きたいと思いながら、文章としてまとまらなかったことどもを以下に挙げさせていただきたい。
  • 動物学・生物学から「生活学」、新博物学へ。
  • 菌類ハ菌類デアル(菌類を植物だと思ってみたのでは真に迫れない)。
  • 下を向いて歩こう(きのこ菌糸やモグラの身になって考えてみよう)。
  • 排泄や死は「終わり」ではなく、ひとつの「始まり」である。
  • 堂々たるスカトロジー(scatology、糞尿学)へ向けて。
ただし、この本がこれらの精神で貫かれているというわけではない。副題の「地下生物学」は「アングラ生物学」としたほうが当たっているかもしれない。
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