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きのこの生物学シリーズ3 きのこの遺伝と育種 【内容紹介】本書「はじめに」より | |||
チャールズ・ダーウィンは19世紀末に「ある生き物が遺伝的にすぐれていることを示す規準は、それがいかに多額の金もうけをさせたか、ということである」との意味の意見を述べている。また、現代は、国家が学問の振興のため便宜をはかり、優秀な人材を集めているので、その人びとは、研究材料として各種の適した生物を選び、驚くほどの成果をあげてきた。しかし、きのこは多額の金もうけに向かなかったので、ダーウィンの規準による興味も引かなかったし、遺伝学的研究材料として都合のよい材料とも考えられなかった。そこで、一部の変人とアマチュアをのぞき、一生の仕事としての興味に没入する人が少なく、その研究は今まで多かったとはいえない。そして、菌類とくにきのこの実体に対する理解は、今も、一般に稀薄である。 しかし、この30年あまり、きのこが農村の重要な作目としてさかんに栽培されるにつれ、その育種にも目が向けられ、きのこの遺伝学、育種学の入門書が求められるようになった。本書はこのような背景で書いた一冊である。したがって、農村できのこ栽培に従事している若者にも理解できるように、限られた紙数のなかで、中程度のレベルで解説した。そのため、遺伝学として重要な事項であっても省略することがありながら、遺伝のしくみの理解のためには、生活史の解説を必要とし、発生の分野まで何程か含むことになった。 遺伝学の知識を一応もっている方々にはたよりないかもしれないが、高等学校程度の生物学しか学んでいない読者には、菌類の概念と遺伝学の入門から、分子生物学にいたるまでの概説書としても利用していただけるように内容を組み立てたつもりである。きのこの遺伝学そのものについては、今までの研究が、もっぱら交配型因子の機能と構造に向けられてきたので、それらを中心にせざるを得なかった。また、実際の育種に対しては、系統立った技術が開発されているわけではないので、筆者が用いている方法を幹にして述べた。この方法が一般に利用されれば、著者としてたいへん嬉しいことである。 きのこの遺伝学は、とくに交配型因子の働きに焦点があてられて、知識が集積されてきた。そのため、他の動植物の遺伝学にくらべると、非常にかたよった内容のものになっている。このような理由や、各項目を読み物としての観点から配列したということから、教科書としては、整理に欠けているように見えるかもしれない。読者には、第1ページから読み進んで、全体を理解していただきたいものである。 | |||
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