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きのこの生物学シリーズ1
きのこの利用

【内容紹介】本書「はじめに」より


 今なぜきのこブームなのだろうか。飽食の時代、老齢化の時代は、食と健康への強い関心を呼び起こす。マツタケやトリフのように、美味の対象として珍重されるものも、もちろんあるが、きのこはダイエットファイバー(食用繊維、栄養上役に立つ繊維質)として見直されているのである。きのこの多糖類に抗腫瘍活性があることが発見されたことも、大きな要因であろう。
 頻発する異常気象。工業的発展のひずみとしての環境汚染や環境破壊。砂漠化の進行。資源は無限ではないのだという考えが、人びとの心の奥深くに沈潜している。現在、植物バイオテクノロジーに熱い視線がそそがれている背景には、このような時代への不安感があるように思われる。そしてきのこも、ここ数年の間に、重要な生物資源の1つとして、植物バイオテクノロジーの中に根をおろしてきた。この点を考えるなら、今回のブームが単なるブームに止らず、地に足のついたきのこ研究が生まれる端緒となることが期待できるかもしれない。
 ここで忘れてならないことは、自然界におけるきのこの役割であろう。きのこは、自然界での物質循環における単なる還元者以上のものであることは、本シリーズの中でくわしく述べられているので本書では触れないが、還元者の役割にも注目しておく必要がある。
 最近、農工複合体論や、アグロホロニクスなどの議論が盛んであるが、これには生態学的アプローチと資源再利用という、二つの理念が根底にある。きのこによるリグニンの再利用はそのポイントである。きのこによるセルロースやリグニンの分解は、今後とも重要な問題であろう。
 本書ではきのこの利用を三つの側面から紹介したい。第1は、食物としてのきのこである。きのこの液体培養についても概略を述べる。なお、培養については、本シリーズの「きのこの実験法」を参照されたい。第2は、きのこによる物質生産である。この分野は、対象がきわめて多岐にわたるので、医薬的話題を中心に、トピックス的に取り上げるに止めたい。第3は、きのこの自然界での役割に基づく利用である。きのこ類の酵素についても、少しくわしく述べる予定である。
 本書ではきのこの利用を、きのこの成分や、きのこによる物質生産研究の現状を中心として紹介することになる。これらがきのこを理解する一助ともなれば望外の幸いである。
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