| |||
高山蝶 山とチョウと私 【内容紹介】本書「はじめに」より | |||
戦後の日本は急速な経済成長を遂げ、その代償に豊かな自然を失ってきた。私の育った1950年代はまだ発展途上で、身の回りにも多くの昆虫が見られた。私と同世代の人たちはだれでも幼いころ虫に親しんだものである。 現在、私が虫の研究を続けているのは、この幼いころの虫好きがこうじて今でも虫から離れられないというのが真相である。 昆虫の中でも、とりわけ蝶は美しく、収集や研究の対象としてよく調べられている。日本に産する250種あまりの蝶のほとんどは生活史が解明され、生態もひと通り調査されているといってもよい。 日本列島は南北に細長く、亜熱帯から亜寒帯にいたるまでさまざまな気候区分があり、そこに棲む蝶相も変化に富んでいる。中部地方には日本アルプスや八ケ岳、北海道には大雪山の中央高地や日高山脈などの山々がそびえ立ち、「高山蝶」と呼ばれる、高山にだけ棲む珍しい蝶が分布している。 その言葉の起源は高山植物に次いで古く、明治時代後期より高山蝶の発見をめぐって劇的なドラマが展開され、大正末まで続いた。現在、日本からは本州産9種、北海道産5種、このうち本州と北海道の共通種1種を含み、合計13種という高山蝶の分類が、一般に確立している。 しかし、高山帯に棲むものに限定すると、本州ではただ1種、北海道では3種に減ってしまう。これは私が自分自身の目で見、足で稼いで得た結果である。分布の限られているものや珍しさだけで、高山蝶に加えられている場合があり、厳密な分類ではないというのが実態である。 その珍しさゆえに保護が必要とされ、ほとんどは国や地方自治体によって天然記念物に指定されている。このような現状から、私の目的はその分布や生態を調べることが主体で、それも成虫が出現する夏だけでなく、春や秋、ときには厳冬期に越冬状態を調べることもあり、四季を追って高山蝶に接している。 本書では、高山蝶の生態そのものよりも、分類や分布に重点をおいて記述している。今までの報文には記されていない新しい知見や主張もある。従来の説と真っ向から対立する記述があるかもしれないが、これを1つの提言として、今後さらに検討を加えていただければと思っている。 | |||
トップページへ |