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【熱帯雨林】総論 【内容紹介】本書「日本語版へのまえがき」より | |||
日本、アメリカ、ヨーロッパなどの先進国で、熱帯雨林への関心が近年いちじるしく高まっている。これらの森林は長いあいだ科学者たちを魅了し、その森林が所在する諸国にとっても重要なものであった。これが今日マスメディアを賑わせているのは、熱帯雨林での木材の伐採が急激に増加しているからであり、また熱帯の国ぐにには増えつづける人口を養うべく農地への転用を望んでいるからである。 この書物のねらいは、多雨林がなぜ重要なのか、その喪失をだれもが憂慮する原因がどこにあるかを明らかにすることだ。それと同時に、適切な配慮と多雨林の生態系についての正しい理解があれば、多雨林の基本的な特性と機能を維持しながら木材やそのほかの林産物を持続的に収穫できるということが示されている。ただしそのようなサステナブルな利用を実現するには、消費者からの積極的なプッシュが何よりも大切である。 日本は熱帯材の重要な市場であり、国際市場に登場する熱帯産広葉樹材の約3分の1を輸入している。そのほとんどは南洋材であって、マレーシア、インドネシア、パプアニューギニアで生産されたものだ。つまり日本の動きいかんで世界の熱帯雨林の将来は大きく左右される。 読者のみなさんは、この日本語版を通して多雨林の価値とそれが消失することの重大さをあらためて認識されることであろう。多雨林の産品を消費するすべての人びとは、これらの壮大な多雨林を破壊から守り、その恩恵を将来世代とも分かちあえるよう、持続的で注意深い経営の確立に向けて合同しなければならない。 | |||
【内容紹介】本書「訳者あとがき」より | |||
熱帯雨林とそこに住む人びとについての私たちの知識はまだまだ貧弱である。熱帯林問題の論議は結構盛んだが、そのよって立つ基盤が予想外にもろい。基礎の不安定さが論議を混乱させ、不毛な論争を引き起こすことがしばしばある。Whitmoreの入門的な総論の出版はわが国にとっても時宜を得たことであった。熱帯雨林に関心のある人なら、専門のいかんを問わず、本書レベルの基礎知識は不可欠であろう。 もちろんここに書かれていることが全部正しいというわけではない。世界の熱帯林のすべてを一冊の書物に収めるのはどのみち不可能であり、どのようにまとめても抽象の世界になってしまう。各地域の個別具体的な事象と本書の記述とのあいだに若干の乖離が出てくるのは避けられないし、あるいは原著者がしばしば戒めている行き過ぎた一般化の危険も絶えずつきまとっている。 また、熱帯林の消失速度とその原因に関する部分で、国連機関が発表する統計数字が使われているが、これらの数字自体が多くの問題を内包していることに留意すべきであろう。FAOが1990年を期して実施した新しい熱帯林調査に期待していたけれど、最近公表されたその最終報告書を見るかぎり、以前から指摘されてきた熱帯林統計の不透明性と何がしかの政治性は少しも払拭されていない。統計数字の面でも熱帯林はなお厚いベールにおおわれている。 こうした限界はあるものの、熱帯雨林についてのWhitmoreの広い経験と深い学識が、比較的バランスのとれた全体像を描き出していると思う。彼の見方に賛成するにせよ反対するにせよ、問題を掘り下げる際の格好の出発点として本書は役立つはずである。 | |||
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