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世界を動かす日本の薬

【内容紹介】●本書「はじめに」より


 1947年、終戦直後の極度に荒廃した時代に、私共の新薬開発の研究はスタートした。当初から産学共同研究という独自の形態をとり、50余年の間、独自の高い目標が意識され強調されてきたのである。
 第一に国際的水準を抜くこと、第二に、流行の研究は避けること、さらに第三には、医学に役立つ「くすり」を求める、という点が強調された。この当然の三点が研究の新しい方向を研究者に強いる結果となった。それが止血剤としての抗プラスミン剤や、抗血栓剤としての抗トロンビン剤といった新分野を切り拓く根本的なモメントとなった。
 また、この一書には、それに到る「産学共同のあり方」という大きな問題に素材を提供する、という思いが込められている。
 一方で、この一連の新薬研究において、「日本発」の「特許」の手続きが、早期からきわめて有力な「広報力」を発揮した事実にも一章を割いた。
 たとえば、日本で1960年に開かれた国際血液学会では、抗プラスミン剤イプシロンの英国特許文書を「壁発表」のポスターに加えたのであるが、口頭発表よりはるかに強い国際的影響力を発揮したのであった。また後のトランサミンの場合には20社を越す諸外国の企業からの引合いがあり、逆にこれが日本側の研究推進への強力な刺激になった。
 私共の新薬の情報を求めて、はるばる神戸や東京まで訪ねて来られた外国の研究者も優に200名を越し、夜を徹しての討論がそこにあった。こうしてわれわれは、私共の研究が海外の研究の流行を超越した国際的な意味を持つことを確信し得たのであった。
 外国の追試研究に重点をおいてきた日本の製薬界にとっては、輸入型知識の180度転換を意味することでもあり、製薬革命あるいは創薬革命を意味した。
 こうして、私共自身の仕事の歴史を通じて、くすりを創るための創薬革命の一書を手がけることが出来るようになったのである。
 具体的には、一面では医学と薬学がしっかりと手を握ることであった。別な面から見ればアカデミーと産業がしっかりと手を握ることでもあった。
 大規模な産学共同の開発では、専門を大きく越えた「相互理解」が必要となる。しかし、それは簡単なことではない。
 本書を読むに当たっても読者が読みやすいところから読み始めてほしいと考える。たとえば、それぞれの専門分野に近い、身近なテーマから読み進められたい。
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