学校や家庭、地域社会など子どもたちを取りまくさまざまな場で、子どもどうし、子どもと教師、子どもと親などこれもまたさまざまなかたちで、対立(意見の相違や大小のもめごと)が起きています。
私が、スクールカウンセラーとして、日常的に小学生の子どもにかかわるなかで、柔らかな感性が十分にある小学生が、対立を理解し、解決するための技術を総合的に身につけ、信頼を基盤にした対人関係を築いていける方法を模索するなかで、出合ったのが、「対立解決(Conflict Resolution)の考え方です。その対立解決の手法をもとに、私が考案したこのプログラムを「フレンドシップ・サポート・プログラム」と名づけました。
子どもたちが、暴力をともなわない、対立の建設的な解決方法を作り上げるために、この小さな本が、学校現場で子どもにかかわるすべての大人に、ひとつの方法を提案できたら嬉しいと思います。
フレンドシップ・サポートって何?
アメリカ、カナダ、イギリス、オーストラリアなどの学校では、「子どもが友人の相談にのる援助システム」と「複数の子どもの間の対立を対象とする仲裁システム」というプログラムが実践されています。
「フレンドシップ・サポート」では、それらのプログラムで、仲裁役のヘルパーやマネージャーを養成するために使われているトレーニングを応用し、子ども自身が問題解決に向けてどのように取り組んでいったらよいのかを考え、適切な解決能力を高めることを目標にしています。
なぜ小学生にフレンドシップ?
日本でも、中学校を中心にさまざまなかたちのピア・ヘルピングの活動が始まっています。私は、これを是非、小学校時代からも推進したいと考えています。特に、3・4年生の「ただ相手に勝ったり、やみくもに相手を負かすのではなく、ルールに従って行動することの心地好さ」がわかる学齢期にしっかり身につけておくことは、その後の不安定な思春期をうまくのりこえるため、さらには、社会人として調和のとれた対人関係や生活を築くために、何らかのよい効果を与えるでしょう。
即席的な変化を求めるのではなく、生き方の基本となるような考え方を、時間をかけて育成し、開発できるのは、柔らかな感性と可能性に恵まれている小学生時代だと思います。
子どものなかの健康な部分、たとえば、率直な感情表現、困っている人に手を貸すことの喜び、人を励ます能力などを、適切なプログラムにより引き出し、大きく育つのを見守るのが、子どもの教育にかかわる者の仕事のひとつです。
また、子どもが大人の行動を手本として受け入れていく期間には限界があります。大人からの援助や助言が受け止められやすい時期に、フレンドシップ・サポート・プログラムを体験する有効性は大きいでしょう。
なぜフレンドシップ・サポート・プログラムが必要か
大人もそうですが、子どもも本当に深刻な問題は、なかなか簡単に人に言えるものではありません。前に述べたように、日常的で、問題が明確なものほど、相談しやすいし、逆に、教室という場のなかで、裁判官としての教師に訴えてくることができる種類の問題は、解決の方法が見出しやすいと考えられます。
まず、自分が問題を抱えたときに、それを否認したり、回避したり、相手を攻撃するのではなく、共通理解を基盤とする話し合いを通して解決できる、という見通しがあって、初めて相談という行動に移せます。見通しを成り立たせているのは、相手への信頼感です。
フレンドシップ・サポート・プログラムの底流にあるのは、さまざまな実践的なプログラムを行なうなかで、子どもに相互信頼を頭だけでなく体で実感してもらいたいという考えです。しかも、一方が勝ち、他方が負けるという結果ではなく、双方が得るもののある結果に到達するために、必要な考え方や適切な技法を組み込んだプログラムになっています。
どの子どものなかにもある健全な部分に光を当て、引き出し、さらに育てていく作業が、特に今、小学生の時代から求められているのではないでしょうか。
フレンドシップ・サポート・プログラムを実践して
私はスクールカウンセラーとして派遣された学校で、担任の教師や養護教諭と協力して、学級活動や自主グループとしてフレンドシップ・サポート・プログラムを実践しました。現在進行中の学校もあります。また、派遣された区内の他の小学校から依頼されて、アドバイザーというかたちで実施に加わったりしました。ここで、実施したさいの反応についてお話したいと思います。
参加した子どもたちへの「プログラムを体験して気がついたこと、何か発見したことがありましたか」という問いかけには、
「友だちがすごくだいじなものだということが今までよりわかった」
「対立するのもだいじだけど、かいけつがいちばん大切なんだなあ」
「自分のたいどで友だちやお母さん、お父さんも変わる」
「友だちの意見はみんなちがう。友だちの考えや気持ちがわかった」
「対立ということばを初めて知った。対立のおさめかたを知った」
という声が聞かれました。
また、次は実施を体験した教師や、共同実施に加わった教師、養護教諭からのコメントです。
●学級内でもめごとが起きたときの対応に変化が見られた。自分たちで解決しようというきざしが見られるようになった。
●プログラムを実施したことで、今まで見えなかった子どもたちの表現力に驚いた。
●ロールプレイを演じるにさいして、子どもたちが主体的に取り組んでいた。
●楽しんで自分から取り組もうという雰囲気が見られた。
●回を重ねるにつれてかかわりがスムーズになり、知恵を出し合ったり、協力し合う姿が見られるようになった。
●定期的に学級のなかにいろいろな人が出入りすることから、日常の学級活動を改めて見直す機会になった。
また、校長・教頭からは、学校内でのプログラムの位置づけについて多くの助言をいただき、「基本的な人間のかかわりについての取り組み」「1人の大人として必要な社会性をつちかうプログラム」「子どもの健康さを引き出す力になる」などの評価が聞かれました。
さらに、子どもがフレンドシップ・サポート・プログラムを楽しみにしているので、体調を崩させないように、プログラムのある日には特に気をつかったという保護者からの声もありました。
【フレンドシップサポートプログラムの問い合わせ先】
フレンドシップサポート連絡協議会
FAX 03-5458-6824
こちらでは定期的な研究会やセミナーを行なっています。
先生方からのメッセージ
●子どもたちはグループで共同作業したり相手の気持ちを汲み取って作業するこの授業が大好きで、知らず知らずのうちに友だちの関係がやさしい関係になっていくのです。
やさしい関係の中には、相手が嫌な気持ちにならずに自分自身の気持ちをきちんと伝えるなどということも入ります。つまり人と人とが心地よくつきあう方法や距離を、ゲームや作業を通してつかんでいくというものです。(「学級だより」から)
●子どもたちに、自分がどんな人間かを探る、協力の大切さ、この2つを学習させるうえで有効です。
●子どもが、周りの人の考えや気持ちを考えて活動できるようになってきました。
●初めて取り組んだ授業だったので、自分にとってひとつの財産とすることができた。自分自身の子どもへの接し方について考えさせられた。
●自分自身がプログラムについて学び、子どもたちへの関わりや子どもの様子を客観的に見られるようになった。
●考え方や意見を押しつけるよりも引き出す内容だったので、非常に勉強になった。
●美しい授業より交流のある授業を求めていこうと考えています。
●子ども同士の声かけ、表情などが柔らかくなった。
子どもたちからのメッセージ
●私はフレンドシップサポートが大好きです。とくに「人の気持ちを考える」ということが大好きでした。
●いつもはしゃべったり遊んだりしない友だちとふれあえるのがとってもうれしいです。
●フレンドシップをやるとき、いつもわくわくします。体で表したり、実際に役をやったり、とても楽しかったです。
●ぼくはフレンドシップの授業を受けるといつも自分が少しおとなになったような気がしました。それは自分の気持ちがおだやかになるからです。