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フィールドガイド日本の火山1 関東・甲信越の火山1 【内容紹介】●本書「はじめに」より | ||||||
火山---畏怖とめぐみ 私たちの住む日本列島は世界有数の火山国です。世界の活火山のうちの実に約8%が、日本列島に存在しています。しかも、ユーラシア大陸東縁部の海中に細長くのびた、この「ヤポネシア」ともいうべき狭い列島群には、1億2000万人もの人口が密集し、高度な文明社会をいとなんでいるのです。活火山の山麓にも、おおくの人びとが住み、日常生活をしています。活火山であっても、その噴火間隔は、人の一生や生活時間の長さとくらべれば、はるかに長いことがふつうなので、私たちは、ともすれば裏山にある火山が噴火するという事実を忘れがちになります。そして、ひとたび噴火がおこったりすると、たちまちパニックにおちいってしまうことになります。 日本列島で噴火がくりかえされてきたことは、古文書をひもとけば一目瞭然です。私たちの先祖は、昔から火山を神として畏れ崇めながらも、それと共に生きてきたのです。また、今から約6300年前の縄文時代には、南九州で巨大噴火がおこり、九州や西日本の縄文社会が壊滅するような惨禍を経験したこともあります。その時も、この「ヤポネシア」の住民は、不死鳥のごとくよみがえり、その生活と社会とを懸命になって再建してきました。 活火山はかならずいつかは噴火します。それは、さけることのできない現実なのです。そして、火山がいったん目を覚ませば、私たちの社会が自然災害をこうむることは、いずれにせよさけがたいのです。 「敵を知りおのれを知れば、百戦危うからず」という言葉があります。敵の情報をよく知り、自らの状況をよく把握すれば、つねに戦いに勝つことができるという意味です。すなわち、日ごろ私たちが火山についてよく知り、また絶えず噴火に対する心構えをしていれば、たとえ噴火がおこっても、決してあわてることはないということになります。 また、剣の道では、「間合いを見切る」という表現があります。真剣勝負になっても、敵との間に最低限必要な間隔をつねに取っていれば、決して斬られることはないという意味です。剣の達人は、こうした「間合いを見切る」ことがうまいわけです。この狭い日本列島で、ひたすら火山を恐れ、それからいくらのがれようとしても、逃げる場所などありません。私たちは日常的に火山と立ち向かい、真剣勝負をせざるをえないのです。必要なのは火山との「間合いを見切る」ことです。「間合いを見切る」ためには、敵すなわち火山のふるまいについて十分よく知っておかねばなりません。火山をいたずらに恐れるのではなく、上手に共存していく。これが火山列島に住む私たちにとって、どうしても必要なことではないでしょうか。 火山は、もちろん災害をもたらすだけではありません。たぐいまれなる美しくて豊かな自然や、温泉、地熱エネルギー、あるいは金などの鉱産資源を私たちに与えてくれます。「黄金の国ジパング」は、まさに火山のたまものだったのです。また、噴火の際に噴出された火山灰は、山麓に豊穰な土壌を生み出し、豊富な農産物を約束してくれます。噴火期間の長さや噴火の頻度を考えると、火山は被害をもたらしている時よりも、むしろ私たちに豊かさを与えてくれている時間の方がはるかに長いといえるかもしれません。「火山は郷土の宝である」という見方も、あながち的はずれとはいえないことになります。 宮沢賢治の童話「グスコーブドリの伝記」に描かれたイーハトーブの国では、活火山が完全に監視されコントロールされています。火山を人工的に噴火させて、地球環境まで制御しているのです。私たちの国では、まだまだその段階にはいたってはいませんが、以前にくらべれば監視体制はずいぶんと強化されてきました。こうした監視体制はお金がかかりますので、政府や自治体、それに大学などの仕事になっています。 しかし、火山を知るという仕事を、役所や専門家の手だけにゆだねておくわけにはいきません。私たち火山国の住人は、郷土の火山についての知識を、常識として十分に知っておくべき義務と知る権利とをもっていると思います。この本は、そうした火山国日本に生きるふつうの住人たちが、身近な火山を知るための道しるべとして書かれました。 本書には、日本火山学会火山地質ワーキンググループのメンバーをはじめ、フィールドの第一線で活躍するさまざまな研究者・技術者の方のこれまでの研究成果がもりこまれています。一般の方にも理解できるようにやさしく書かれてはありますが、内容の学術的レベルは決して落としてありません。 本書を手にして、火山のフィールドに出かけてみましょう。厳しくも美しい自然と出会い、温泉を満喫し、火山と直接対話することにより、その本当の姿にふれることができるはずです。
本書の構成 | ||||||
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