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都市型水害と過疎地の水害

【内容紹介】本書「あとがき」より抜粋


 水害をなくすためには、被害の実態把握が何よりも重要である。本書は統計資料と実態調査により、日本の水害を分析したものである。
 特に、被災地域住民の聴き取り調査をもとに、被害実態の把握につとめた。今日の日本の水害を、地域に焦点をあててみれば、過疎地の水害と都市・都市近郊水害に大きく区分される。本書ではこれら二つの水害類型の事例を取り上げ、被害の構造的把握、水害対応のあり方や、水害パーセプションの分析を通して、水害研究をすすめた。
 第1章では、日本の水害の全体像を明らかにしようとした。まず、被害金額の移動平均からは、水害被害は減少傾向にはないことを示した。一方、死者・行方不明者数は、減少傾向にある。情報の伝達システムや避難体制の確立が進むにしたがい、一度に1000名を超える犠牲者の発生は見られなくなった。しかし、現在も100名を超える犠牲者を生む年が、しばしば見られる。
 第2章では、過疎地の水害を対象に、実態調査から、被害構造を明らかにした。過疎地の水害は土砂災害をともなうものが多く、犠牲者も多い。しかも被害は社会的弱者に集中して現れる。被害は単年度にとどまらず、その影響が長期に及ぶことが明らかになった……(中略)……地域の資源を用いた、内発的な経済発展がどこまでできるかと、水害の克服は、密接な関わりを持っている。
 第3章では、都市近郊の水害を事例にあげた。都市近郊は都市化のなかで、地価の相対的に安い水田から、スプロール的に都市的土地利用に転用されていく。もとの地目である水田は、湛水機能を有していたのだから、わずかの盛り土程度では浸水を防ぎきれない……(中略)……地域の水を管理する視点で、流域の土地利用規制が進められる必要がある。
 第4章は都市の水害を論じた。近年、都市の内部の中小河川が、水害原因になることが多い……(中略)……都市の内部で水害常習地が多発している。水害防御施設の建設とともに、非構造的水害対策もとられるようになった。水害対策は行政だけの仕事ではない。地域住民を主体とした「町づくり」のなかに、水害対策が組み込まれることが必要である。この視点がないと、水害克服過程でしばしば生まれる、地域活性化の芽は摘み取られてしまう。
 この視点がないと、水害克服過程でしばしば生まれる、地域活性化の芽は摘み取られてしまう。
 被害は地域のもっとも弱い部分に集中して現われるので、水害は地域問題という面を強く持つ。被災が地域社会の衰退に直結する恐れも生まれる。都市水害では、水害常習地に突然転じたケースが多く、そこでは、住民は地域の課題を考えざるをえなくなる。水害を克服するためには、コミュニティの持つ内的活力を発揮していくことが重要である。
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