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世界がキューバの高学力に注目するわけ

吉田太郎[著]

2400円+税 四六判 336頁 ISBN978-4-8067-1374-6




フィンランドと並ぶ頭抜けた高学力、フリーターも心配無用----------
いま世界で注目を浴びる「格差なき教育大国」キューバの革命的教育法の謎を解く!


 幼稚園から大学まで教育費はタダ。小学校は20人、中学は15人の少人数教室。過疎地では生徒一人の学校も維持し、地域間格差を作らない。障害児も普通校に転入できるまで付ききりで指導する。中南米統一国際試験で2位を大きく引き離す高得点をあげ、世界の教育専門家を驚嘆させたキューバは、ユネスコがフィンランドとともにモデル国に推奨する教育大国だ。

 競争はする。だが、それはクラスメートと助けあうため。半数の子どもが学校に通えず、100万人が読み書きができず、国民の平均学力は小学校3年レベル。革命以前の低学力格差社会から出発したキューバは、独自の教育理論で科学技術大国へとのしあがる。

地域ぐるみの子育てや高校生を教壇に立たせる緊急教員の養成で1990年代のソ連崩壊による経済危機を乗り越えたキューバは、観光やバイテク製品、医療技術援助で外貨を稼ぎ、年12パーセントという空前の経済成長を達成する。

だが、好景気がもたらしたのは、ニューリッチ階層出現による格差社会、採算割れの基幹産業である製糖業の大リストラ、そして、若者の未来への希望喪失という新たな難題だった。

革命は教育の充実と全国民の教養水準の涵養をもってしか維持できない。政治の表舞台から消えたカストロが残した一手は、教育を通じたフリーター全員の雇用と万人のための大学、幼稚園からのパソコン教育、そして、貧しい途上国への教育援助だった。

「人間は教養を身に付けてこそ自由になれる」--------祖国解放を夢見て志半ばに散った革命の英雄ホセ・マルティの言葉を胸に、世界で最も文化水準高き国となることを目指すカリブの小国の実践は、ワーキング・プアや教育格差の広がりに直面する日本に明るい希望をなげかける。

幼稚園から大学まで学生や教師、文部担当官僚、元大臣への現地インタビューを通じて、世界が瞠目する「持続可能な医療福祉社会」を支える人材育成の謎に迫った最新リポート。

【目次】



  プロローグ 〜 キューバへの誘い 12
     唱歌ふるさとに込められた想い 12
     教養が崩壊し学力が低下する日本 15
     ユネスコが太鼓判を押す教育モデル 16
     ラテンアメリカの平均を大きく上回る異常成績 17
     豊かな国ほど高い子どもたちの成績 20
     教育崩壊したイギリスがモデルとして学ぶ国 22
     フィンランドと同じ学習手法で成績を伸ばすキューバの子どもたち 24
     山村の学校で大使を夢見る少女 26

1 高学力の謎を解く 29
   1-1 生徒全員が学力を身に付ける-声に出して読むスペイン語 30
     校舎はオンボロでも学校が好き 30
     声に出して読むスペイン語 34
     小学校からのコンピューター教育 36
     地域にある学校に通える子どもたち 38
     小学校からある落第、全員が基礎学力を習得して実社会へ 42

   1-2 先進国に匹敵する少人数教室が育む学力 45
     勉強だけでなく人生相談にも乗ってもらえる学校 45
     ビデオで学ぶ少人数授業 47
     全中学で15人の少人数学級を実現 48
     クラブ活動を重視した全人教育と社会活動教育 52

   1-3 競争ではない相互学習で身に付く高学力 57
     将来の幹部候補生を養成するエリート校 57
     少人数教室でのハイレベルの授業 59
     現職副首相の子弟も落ちる公正な試験 61
     八五点以上の成績を取らなければ即落第 63
     学生生活を満喫する生徒たち 65
     競争ではなく自主的に学びあう生徒たち 66
     友が憂いに我は泣き、我が喜びに友は舞う 67
     キューバの一五の春〜成績のいい子どもだけが進学できる高校 69
     社会人が再チャレンジする大学-情けは人のためならず 70

   1-4 ソ連譲りの教育理論が育む高学力 76
     無料の教育を支える世界一の教育投資 76
     行動主義から構成主義にシフトした世界の教育理論 78
     ロシアが生んだ天才心理学者の学習理論 80
     先生よりも子ども同士で五倍も学ぶ子どもたち 83

   1-5 社会共通資本の豊かさが支える高学力 85
     学力には教師や学校よりも家庭環境の方が重要 85
     貧乏人の子どもは底辺校でダメ教師に教わる 87
     地域が育てる子どもたち 89
     無料の教育は国民の権利 92
     米国内で一番成績のいい学校は 93

2 脱貧困社会を目指して誕生した教育制度 95
   2-1 革命以前のキューバの教育 96
     教会が支配する植民地時代の差別教育 96
     米国流教育の押し付け 98
     国は繁栄しても広まった格差 101
     授業をせずに給料だけをもらっていた特権教師たち 103

   2-2 進む革命後の教育改革 105
     兵舎や警察を学校に転換して普遍教育を実現 105
     全校を国有化し、教育を無料に 107
     内情はボロボロだった六〇年代の学校現場 108
     学力向上と技術知識の充実を目指す教育改革プラン 111
     進級が自己目的化した学習指導と学力低下 112
     ソ連型中央集権主義教育の光と影 115
     ゆとり教育の失敗とキューバ流ペレストロイカが目指す教育改革とは 117
コラム1 成人教育と生涯学習 120

   2-3 経済危機とソ連型高度成長モデルのゆきづまり 123
     経済危機の中でも閉じられなかった学校 123
     進学率の低下と中退の増加、就職先の減少 126
     以前の半分にまで削られた教育予算 127
     観光業に転職していく教師たち 128
     格差の広がりによる社会の荒廃 129
     若者たちに広まる社会の閉塞感 130

3 財政危機の中でもさらに充実した教育制度 133
   3-1 保育園からコミュニティへ-キューバの乳幼児教育 134
     ユニセフや世界銀行も評価する総合的な幼児教育 134
     テレビを見ながらダンスを踊る園児たち 138
     働く母親たちのための保育園 141
     経済危機の中で誕生した新モデル 143
     地域で子育て「子どもを教育しよう」プログラム 144
     モデルとなった山村での育児実験 147
     地域が育てる子どもたち 148
     他国も手本とするキューバの乳幼児教育 150

   3-2 キューバの教育を支える先生たち 153
     子どもたちへの深い愛情でモノ不足を克服 153
     一六歳の高校生が教壇に立つ小学校 155
     教師は誰からも尊敬される難関の専門職 157
     実習を重んじた実践的な授業 159
     手厚い新米教師へのサポート体制と教員研修 161
     学びあう教師たち 163
     少人数教室実現のための改革 165
     大学生のときから教壇に立つ総合教師 166
コラム2 チリの教育改革の教訓 171

   3-3 障害者に優しい教育 174
     世界の流れと逆行し、障害児を特別にケア 174
     子ども一人ひとりに気を配る全寮制の養護学校 176
     社会に開かれた養護学校 177
     様々なセラピーを通じて自閉症児をケア 178
     障害者も大学に進学でき社会的自立を促す 182
     障害者の社会参加を支える社会の仕組み 183
コラム3 キューバの人工内耳 185

   3-4 ワーキングプアを生まないキューバ流リストラ 188
     砂糖の島に大リストラの波 188
     工場の半分を閉鎖し、サトウキビ畑を三分の一に 192
     話しあいを重ねて納得づくでリストラを実施 193
     リストラされて給料がむしろアップ-勉強することで給料を支給 198
     自分たちで工場内に学校を作る 201
     全国民が望めば大学へ 203
コラム4 サトウキビ労働者 207

4 脱ワーキングプア社会を求めて 211
   4-1 社会とつながる総合教育 212
     子どもたちの興味関心を伸ばす総合教育 212
     ピオネーロス宮殿での職業体験 214
     校則を自分たちで管理する子どもたち 216
     小学校から手伝いを求める労働教育 217
     農村の寄宿学校で農作業に汗する中高生 218
     朝にペンを持たば、午後には耕せ 219
     都市と農村の交流の失敗と農村中学の見直し 219
コラム5 人気の高い農業専門学校 224

   4-2 格差なき公正な競争社会を求めて 229
     ソーシャル・ワーカー校の設立と失業者の一掃 229
     万人のための大学で教養を高める 232
     犯罪は自己責任でないから刑務所内に大学を作る 233
     グローバル化の推進を目指してパソコン教育を 236
     知的財産でグローバル化の中を生き延びる 239
     人々のために国に尽くすという共有哲学 240
コラム6 キューバから学べるメディア・リテラシー 246

   4-3 全国識字教育キャンペーン 251
     読み書きができない者は人類の遺産を奪われている 251
     非識字者根絶に向け10万人の中高生を農山村に動員 254
     成功したカストロ 258
     政治と軍事色を帯びていたキャンペーン 259
     連帯意識の醸成につながった運動 261

   4-4 世界に広まるキューバの識字教育法 266
     いまも八億人以上いる非識字者たち 266
     キューバのプログラムで非識字者根絶に取り組む開発途上国 268
     テレビやビデオを活用して三カ月で読み書きをマスター 271
     どの言語にも汎用性が効き世界二八カ国で活用中 272
     最貧国ハイチの草の根から誕生したプログラム 275
     評価されてこなかったキューバの識字力向上運動 277
     地球はわたしたちの村。そして、教育は世界の宝物 278
     人間は教育がなければ自由になれない 281
     健全な社会はお金だけでは評価できない 283

   4-5 無知こそが戦争を生む 285
     キューバにあるジョン・レノン公園 285
     挫折したニカラグアの八〇年代の教育改革 288
     平和でなければ教育改革も進まない 289
     広島にこだわるカストロ 292
     ヒロシマを訪れたキューバ人 293
     フェルナンデス元大尉がヒロシマで見たもの 294
     苦学を重ね医師からゲリラに 297
     ゲリラ戦の最中から始まった教育活動 298
     教育が最も重要だからこそどんなときにも手を抜かない 300
     平和のためにこそ無知ではなく教育が必要 302

   4-6 エピローグ 304

あとがき 311
用語集および参考文献 339