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世界がキューバ医療を
手本にするわけ

吉田太郎[著]


2000円+税 四六判 264頁 2007年8月発行 ISBN978-4-8067-1351-7


 米国の医療問題に取り組んだアカデミー賞監督マイケル・ムーアの最新作『シッコ』の中で、米国の医療制度に見捨てられた患者さんたちを引き連れてムーアが向かうのが、キューバの病院です。

 カリブ海に浮かぶ貧しい島国が、なぜ、医療システムだけは、米国をしのぐ先進性、利便性を持ち得たのでしょうか?

 その疑問にズバリ、答えるのが、本書、WHO(世界保健機関)が太鼓判を捺す医療大国キューバからのリポートです。
 同時に、曲がり角に立つ日本の医療制度の問題点を鮮やかに映し出します。

 「聖域なき構造改革」から、「持続可能な医療福祉社会」への転換のためのブループリントを描かなければならない先進諸国にとって、キューバの挑戦は、イギリスBBCテレビをはじめ、欧米メディアではかなり広く報道されていますが、日本では、初めての本格的リポートです。




乳幼児死亡率は米国以下。
平均寿命は先進国並み。
がん治療から心臓移植まで医療費はタダ。
大都市の下町から過疎山村まで、全国土を網羅する予防医療。
世界のどこにもないワクチンを作りだす高度先端技術・・・・・
キューバはWHOも太鼓判をおす医療大国だ。
 鍼灸や気功、リナックスOSによるパソコンネットの整備でソ連崩壊後の経済危機も克服し、その医療水準を堅持したキューバは、観光とバイテク製品の輸出で、いま年12%という空前の経済成長に湧いている。だが、好景気がもたらしたのは、若者の勤労意欲の低下、ニューリッチ階層の出現による格差社会、そして高齢化社会への対応という新たな難題だった。
 革命は倫理喪失から内部瓦解する。石油の枯渇による将来的なグローバル経済の破綻を憂える老い先短いカストロが打った最後の一手は、失業中の若者たち全員を雇用しての「もったいない運動」の展開と高齢者介護の充実、貧しい開発途上国への医療援助だった。
「革命とは、心優しく人びとを支援すること」青年医師ゲバラが志半ばにして倒れてちょうど半世紀。「持続可能な福祉医療社会」の実現を目指してカリブの小国が続けてきた模索は、日本の将来を懸念する現場の医師や患者に、もうひとつの未来へのヒントを垣間見せてくれる。
市井の人びと、医師、研究者、保健医療担当官僚への現場インタビューを通じて、変化し続けるキューバの姿を克明に描いた最新リポート。

書評再録 読者の声
【目次】


  プロローグ 〜 キューバへの誘い 10

     崩壊する日本の福祉医療 10
     持続可能な福祉医療は可能か 13
     米国よりも乳児死亡率が低いキューバ 16
     医療崩壊したイギリスがモデルとして学ぶ国 17
     世界保険機関の事務局長が太鼓判を押した医療大国 19
     キューバからやってきた若き女医 21

1 群を抜くキューバの地域予防医療 25

     街中で患者とともに暮らすファミリー・ドクター 26
     地域医療で経済危機の試練に耐える 32
     革命以前から傑出していたキューバ医学 35
     農村医療から出発したキューバのプライマリ・ケア 40
     保健医療活動の主役となる市町村総合診療所の創設 44
     予防医療のモデルとなったコミュニティ診療所 46
     プライマリ・ケア医療の柱、ファミリー・ドクター制度 50
     人の健康の九割は環境で決まる 53

2 外貨の稼ぎ手〜高度医療と医薬品 59

 2-1 キューバのハイテク医療 60
     地域資源を活用したユニークな医薬品の開発 60
     オンリー・ワンのオリジナル・ワクチン 62
     マラドーナもでかけたヘルスツアー 64
     一二人の狂った若者たち 68

 2-2 デング熱とキューバのバイテク戦略 71
     米国のバイオテロで三四万人が病気に? 71
     インターフェロン生産で世界をリード 74
     中央計画経済下でスタートしたバイテク開発 76
     バイテク立国を目指した苦闘〜カストロの賭け 78
     お金儲けとは縁がないバイテク開発 81

 2-3 世界の人々のためのワクチン 84
     世界初の人工合成抗原ワクチン 84
     カナダと協働開発された新技術 86
     第三世界の子どもたちの命を守るための戦い 89

 2-4 恋愛大国キューバの対エイズ戦略 95
     輸入血液製剤を全て破棄 95
     患者全員をサナトリウムに強制収容 98
     自力でエイズ治療薬を開発 101
     観光外貨という麻薬と住民総参加による予防作戦 104

3 代替医療と電子情報ネットワーク 111

 3-1 鍼灸、ハーブ、自然食、気功、ヨガ 112
     経済崩壊の中で誕生した代替医療 112
     近代医療と代替医療の統合 117
     代替療法の博覧会 120
     着目される日本の自然食 122
     代替医療の哲学 124

 3-2 キューバの医療情報革命 128
     ペーパーレス社会が生んだパソコンネット 128
     電子ネットで広まるエビデンスに基づく医療 132
     医療電子図書館とバーチャル大学 134
     全世界に無料で発信される医療情報 136

4 国境なき医師団 141

 4-1 被災国で活躍するキューバの医師たち 142
     極寒のヒマラヤ山中での救助活動 142
     中部ジャワ〜激甚被災地に踏みとどまった救助隊 147
     二一世紀のサンダー・バード、「ヘンリー・リーブ」国際救助隊 152
      コラム1 チェルノブイリの子どもたち 156

 4-2 ラテンアメリカ医科大学 159
     ユニークな実践医科大学 159
     米国の学生も学ぶ医科大学 165
     カップルが抱きあう陽気なキャンパス 168
      コラム2 ニューヨークのハーレムでのカストロの演説 171

 4-3 キューバの医療外交 174
     五〇万人に再び光を〜奇跡の眼科手術プロジェクト 174
     革命直後から世界に向けて展開された医療援助 177
     ベネズエラとボリビアへの医療援助 179
     医師輸出で石油を獲得し経済成長 182

5 持続可能な医療と福祉社会の仕組みづくり 189


 5-1 ピーク・オイルと省エネ宣言 190
     ピーク・オイル時代のモデルとして世界が注目するキューバ 190
     国をあげた「もったいない運動」の展開 194
     ハリウッド映画は人間を馬鹿にする? 197

 5-2 一二〇歳まで生きる島 201
     世界最長寿記録保持者はキューバ人? 201
     お年寄りに優しい社会・ユニークな老人サークル 204
     キューバ流カルチャーセンター 211
      コラム3 キューバの憲法第9条 214

 5-3 格差社会解消への挑戦 216
     軍事費を削って、医療・福祉予算を増額 216
     ソーシャル・キャピタルに大きく左右される人々の健康 219
     医師とタクシー運転手で四〇倍の給料差 222
     15人学級の実現と幼稚園からのコンピューター教育 224
     芸術校の創設と全国民への生涯学習 226
     社会風紀の乱れとお年寄りを守る若きソーシャル・ワーカーたち 227
     失業中の若者たちの再チャレンジ・プログラム 229
     目指すは芸術や文化、科学が進展した知識社会 231
     下流志向の若者は社会が作る 232

 5-4 今も生きるチェ・ゲバラ 237
     現場の診療所で実践する医学教育改革 237
     今も生きるゲバラの言葉

 エピローグ 237
 参考文献 264
 用語集 267