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砂漠のキャデラック アメリカの水資源開発 【書評再録】 | |||
●日本経済新聞評(1999年11月28日)=河口堰を含めて、ダムは無駄な投資のシンボルになった。それがもたらす経済的効果よりも、自然・環境を破壊するマイナスの方が大きいと見られるようになった。が、依然としてダム建設の欲求は強い。なぜだろうか。 本書を読むとその“からくり”の一端がわかる。 米国の事例だが、読み進むとともに、書かれていることは決して海の向こうのことではない、ことを多くの読者は感じ取るだろう。 一冊の本が一国の政治を変えることがある。「水」をテーマにしたこの本が、米国の公共投資のあり方を変えたとも言われる。うなずける面はある。日本の水資源開発のあり方を考え直す手がかりにもなる。 ●読売新聞評(1999年10月25日)=自然環境の破壊、水需要の水増しなどに基づく多目的ダム幻想---。こういった水資源開発への懐疑を機軸に、米国のダム開発の歴史を丹念に追い、政治的利益のためにダムが造られていった過程を描いている。 ●共同通信全国配信記事(1999年10月17日より)=ダム建設の歴史に分け入り、それが結局は、税金を使って大規模農業経営者だけを潤すことであり、幾種類もの動植物を絶滅に追いやったり、一万年もかかって溜め込まれた地下水を数十年間で使い尽くす暴挙であり、さらに役所同士の縄張り争いと、コストも便益も無視した建設それ自体の自己目的化だった、とみごとに描いている。 アメリカ資本主義の、これが正体だったか、と私は目をみはりながらページをめくった(片岡夏実の訳文は読みやすく、注釈も簡潔でていねいだ)。ここではアメリカの歴史や政治経済の動きばかりか、大衆の性格形成の道筋までが読みとれる(アメリカ旅行を計画中の若者は必読、と勧めたい)。 ●アウトドア評(2000年1月号)=本書は、あのレイチェル・カーソンの名著「沈黙の春」以来、アメリカで最も影響力のある書として、各方面からさまざまな賞賛を得た話題の本である。アメリカの現代史を公共事業、水利権、官僚組織と政治、経済破綻など多くの切り口から研究し、問題を指摘し続けてきた真実のレポートだ。全米でセンセーショナルな反響を巻き起こし、合衆国政府が大きな政策転換を迫られるきっかけとなったものでもある。 これはアメリカだけの話ではない。わが国においてもまさしく現実の話なのである。しかし、日本が変われるかどうか……。 ●私たちの自然評(2000年5月号)=水資源開発をめぐる20世紀米国西部の歴史が、丹念な調査と事実に基づいて再現されている。議会、行政、大統領、技術者、自然保護団体、住民がどうダム開発に関わってきたか、具体的な人物像も明らかにした壮大なドラマが読者の前に展開する。ダム崩壊の描写は昨日起きた災害のようにリアル。米国環境保全運動の成熟を表すと言われるグレン・キャニオンダムをめぐる闘いは印象的だ。 ●赤旗評(2000年1月10日)=本書は西部開拓以来のアメリカ史を通じて水資源開発がいかに行なわれてきたのかを膨大なエピソードをもとに解き明かした貴重な資料である。 アメリカの環境保護思想が、本書のような洞察に満ちた高い水準の研究に裏付けられていることには驚くばかりである。90年代に入りアメリカ政府は「ダムの時代は終わった」とし開発政策を転換した。そうした政策転換の教訓をくみ取る上でも、本書は日本において広く読まれるべきである。 | |||
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