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ATOMIC BOMB INJURIES 原爆症 【内容紹介】本書「原爆とIPPNW」より | |||
広島・長崎に対する原爆攻撃は、人類にとって前古未曾有の経験であり、想像を絶する甚大な人的・物的ならびに社会構造的被害をもたらした。原爆の威力に関しては強力な爆薬であるTNTのそれと等価対比されるが、これには重大な誤謬がある。すなわち、原爆の特質である放射線効果が無視されているからである。 原爆投下後8年目に発刊された本書の初版に記述されている急性期および亜急性期における臨床所見、諸検査成績は、原爆投下後いち早く広島、長崎の両市にはいり、困難な状況下にあって救急医療および調査研究に従事した諸大学の医師、研究者、ならびに陸海軍病院スタッフが残したものであって、科学的観点に立脚した正確な記録である。 また掲載されている災害の現場写真および被爆個体の肉眼的ならびに病理組織学的写真などは、その実態の理解に大きく寄与している。特に組織像は被爆線量と臨床経過との相関関係をよく示している。さらに急性期死亡例の詳細な剖検所見は、放射線障害の特色を正確に把握しており貴重なドキュメントである。これらの記録は、多大な犠牲を強いられた人間集団の核爆弾被爆についての唯一の医科学的記録であって、きわめて貴重な文献と言える。 広島・長崎に対する原爆投下に加えて、米ソ対立の冷戦下における太平洋水域で頻繁と繰り返された原水爆実験、旧ソ連邦における核物質漏出事故、核実験場周辺住民の被爆、チェルノブイリ原子炉事故その他の放射性物質による汚染事故などによる被爆者が、全世界的に増加しているのが現状である。 戦後、医学生物学は飛躍的に進歩し、さらに分子生物・遺伝学手法の導入によって、癌をはじめとする各種疾患の発生メカニズムは遺伝子レベルで解析されつつある。しかし残念ながら放射線障害の軽減、あるいは治療に関しては決定的な方法は見出されていない。核戦争の「予防」が唯一の手段といわれる所以である。 核災害のプロトタイプとも言える広島・長崎の災害記録は二度と繰り返されてはいけない貴重なものである。世の多くの人々は、原爆は過去のものであってその被爆影響が現在もなお続いていることを知らないであろう。そのような世情に対する警鐘としても被爆50周年を期して本書が刊行されたことは時宜に適した意義深いものと確信する。 | |||
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