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昆虫飛翔のメカニズムと進化

【内容紹介】本書「訳者あとがき」より


 昆虫は約3億年前に地球上に姿を現し、脊椎動物とならんで、現在最も繁栄している動物群である。その種類数は現在知られているものだけでも100万種を超え、形態的にきわめて多様である。生息場所は地表面はもとより地中、水中、空中とあらゆる場所に及んでいるが、なかでも特徴的なのは、多くの種類が翅をもち、空中を飛ぶということであろう。「昆虫はいかにして空中を飛ぶようになったか」が本書の主題である。著者は化石昆虫を含む多くの昆虫種に関する豊富な形態学的知見と、高速映画フィルムを用いた飛翔行動の解析や空気力学的知識を駆使して、昆虫飛翔のメカニズムとその進化の道すじを見事に描きだしている。従来、昆虫の翅の形態は主として昆虫の分類の手がかりとしてのみ注目されがちであったが、これが飛翔という機能と関連して考察されるとき、我々は昆虫進化の妙にただ感嘆させられるのである。したがって本書は、昆虫学研究者の研究の助けとなるだけでなく、学生や科学に関心のある社会人の教養書としても、十分にその役割を果たしうるものと考えられる。
【内容紹介】本書「序文」より

 昆虫飛翔は、多くの分野の科学者にとってきわめて興味のあるテーマである。これは非常に複雑な多くの問題に対する挑戦といえる。なぜなら、昆虫がたいへん微妙な動きをするうえに、自由に飛翔する動物を観察することがきわめてむずかしいからである。このテーマはおそらく、解剖学的、生理学的、形態学的、エネルギー的、空気力学的、そして生態学的な見地から取り組まれることであろう。飛翔についてのこれらの局面のうち、1つの局面だけから研究することは魅力的なことかもしれないが、やめたほうがよい。それはこれらの多くの局面が相互に関連しているからであって、異なる局面を同時に研究することによって、非常に多くのことを我々は学ぶことができる。最も実りあるアプローチは、進化の過程で昆虫の翅器官の構造と機能に起こった変化を研究することである。
【内容紹介】本書「後記」より

 昆虫の飛翔の研究の実用的重要性は、まず最初に、この原理の知識と、はばたく翅と気流の相互作用の決定因子が、さまざまな種類の非定常的推進装置の設計と創造のために適用できるところにある。翅をもつ昆虫の主な「技術的」達成は、翅のはばたきの間に形成される慣性力が克服されたことである。昆虫はこれらの力をいかに克服するかだけではなく、それを次のはばたきの半サイクルにおいていかに用いるかを「学んだ」。人類は多くのエネルギーと多くの生命を消費してきた。そしてはばたき飛翔を模倣する試みにおいてなにも得られず失望してきた。推進力の発生のために、はばたきを使用するうえでの主な障害は、人為的な飛行機械の大きさの増大によって、特に高くなる慣性力である。我々はこの問題を避けるために、連続的な回転(プロペラ)と高温度の燃料の消費(反作用の原理)を用いることによって推進力を発生させなければならなかった。
 現在、昆虫飛翔の空気力学から学んできた原理のうちで、いかに多くのものが飛行技術に用いられるかを思い描くことは困難である。しかし、問題解決のためのいくつかの側面はそう遠いものではないであろう。
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