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ごみ処理広域化計画
地方分権と行政の民営化

【内容紹介】●本書「はじめに」より


 旧厚生省(現環境省)は「ダイオキシン対策」として新しい廃棄物政策を打ち出し、市町村の既存炉を、原則1日100トン以上の規模の「安全な」新型炉にリニューアルし、ごみの連続燃焼を義務付けた。
 これが「ごみ処理の広域化計画」である。折からのダイオキシン騒ぎを受け、この計画は一見もっともらしく見え、誰も反対することはなかった。しかしこの政策によって、日本のごみ行政は、それこそ根本から大転換してしまった。さらにもっと重要なことは、この政策が同時に、日本の社会と行政の体制を大きく変質させる目的をもっているという点だ。「広域化計画」は、市町村の「ごみ処理」の権限を奪い、「自治権」を切り離すところからスタートするからで、そこからもたらされる変化と未来は、政府や業界のPRのような、甘い絵になるとはかぎらない。
 本書は、いわば政策科学的アプローチから、この新廃棄物政策が抱える多くの問題点を解き明かした。その意味で、他の「ごみ処理」を扱った本とはかなり毛色が違い、とまどわれる方も多いかもしれない。しかし逆に本書によって、これまで「ごみ処理」で死角になってきたがゆえに重要な問題について多くを知ることができるはずだ。
 当然、異論もあるだろう。政府は循環型社会基本法、各種のリサイクル法、ダイオキシン対策特別法を制定するなど、ごみ問題に真剣に取り組んでいるではないか、というような。しかし「広域化計画」は、生産規制は一切行わず、「廃棄物」を原則すべて焼却処理するという究極の焼却主義だ。高温溶融炉はダイオキシンの発生を前提に、それを複雑な装置でキャッチしようというもので、いわばダイオキシンは、高温溶融炉メーカーにとっては大きな存在意義がある。旧厚生省も高温溶融炉がダイオキシンを発生させることを認めた上で施設の設置を義務付けている。人の命と健康を何より優先すべき旧厚生省が、このような危険性を秘めた広域化計画を、「法律の外側」で強行しているのだ。そこには薬害エイズ事件と同じ図式がある。
 また海外、特にEU(欧州連合)では、「リサイクル」「再利用」さえすでに拒否する声が多く、廃棄物対策の主流は、廃棄物になるものを発生させない「クリーン生産」に移っている。一部の都市・国ではごみの「焼却」を違法としたところもあるほど、「焼却」処理は恐れられ、拒否されている。
 ごみや廃棄物の問題は、誰一人避けて通れない社会システムそのものの問題だ。それなのにその全貌はまことにつかみにくい。それは多くが生産と消費に伴う「負」の部分として、闇に葬られるからである。「ごみ処理の広域化計画」はその闇の中から生まれている。過去20年、日本の旧厚生省の廃棄物政策は完全に世界に後れをとってきたが、闇から生まれた「広域化計画」が、時計の針をさらに20年巻き戻すことになるのは当然かもしれない。本書は多くの人がこの問題を知り、それぞれの立場で議論することができるようにまとめた。特に広域化施設の建設予定地の方たち、ともすれば目先の、毎日のごみの対処に追われている市町村の職員、根本解決から目をそらしている国・県の職員、日々ごみを「生産」し続けている企業人、に向けて書いた。
 問題の先送りと、次世代へのつけ回しは、もうやめようではないか。問題が大きく、解決が困難であることはわかる。しかし、姑息な手段で問題を先送りした結果、多くの人びとを苦しめ、社会的なコストを極大化してきた数々の公害事件や薬害事件から、われわれは、そろそろ真剣に教訓を学ぶときではないか。
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