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脊椎動物の進化

【内容紹介】本書「監訳者あとがき」より


 原書は全面的に改稿されたのではなく、部分的な変更や添削を行ったものである。改変は大幅な加筆や削除をふくめて第2版と比べて約1700ヶ所もあり、図版は64点も増えている。しかし著者が「まえがき」で触れているように、内容の基本的特色は旧版とほぼ同じだといってよい。一言でいえば「脊椎動物の系統論」なのだが、そのかぎりで総合的な性格がつよく、古生物学、動物学、地質学、比較解剖学、系統分類学、進化生物学などの要素を多面的に備えている。また考え方はしごく穏健であり、斬新奇抜な見解を派手に主張するような本ではない。そうした性格のためか、初出版から40年近くを経た今もなおこの本は世界で独特の地位をたもっており、他に類書といえるものはほとんど見当たらない。無数の標本や文献を実際に調べることが必要なこの領域では、こうした書物を独自に作るのがわが国では不可能に近く、そのことが本書を訳出・紹介する最大の理由である。
 この新訳には、旧訳にはなかった重要な要素が一つ加わった。それは「大陸移動」の理論に則って生物の巨視的な分布とその変化を理解しようとするもので、これはちょうど、生物の多様性を説明するのに進化論にしたがうことに相当するほど、分布の理解にとって決定的な要素である。分布の変化は、生物地理学的にみて系統発生ないし形態変化と不可分と考えられるから、その意味でこの本の内容には大きな変化があったとも言える。
 旧版以来の主著者、コルバート博士はかつてアメリカ自然史博物館の古脊椎動物学部長、コロンビア大学教授、恐竜発掘の本場である北アリゾナ博物館の古脊椎動物学部長などを歴任した人で、アメリカにおける古生物学の長老の一人である。彼は1905年アイオワ州クラリンダに生まれ、ミズーリ州で育ち、ネブラスカ州リンカーンのネブラスカ大学を卒業したのち、コロンビア大学で当時最大の古生物学者W.K.グレゴリー教授に師事して学位を取得した。その後はおもに同大学と関係のあるアメリカ自然史博物館を拠点として世界各地--南極大陸も--で調査・採集を行いながら、研究・教育に従事してきた。1940年代に入ってから爬虫類とくに恐竜類の研究にも関わるようになり、70年ごろからは動物相の変遷と大陸移動との関係についてしばしば著作を発表している。この数十年の間に彼は、グレゴリーのほか、その先代のH.F.オズボーン、同世代のA.S.ローマー、G.G.シンプソンをはじめ、20世紀アメリカの錚々たる古脊椎動物学者・進化学者たちと親しく交わる機会に恵まれた。彼は「古き良き時代」の生き証人であるとともに、新しいタイプの進化生物学者S.J.グールド博士の先生の一人でもある。これまで、研究成果や著作物だけでなく社会教育や博物館運営などに関しても、数々の賞を受けている。なお、共著者モラレス氏は北アリゾナ博物館におけるコルバート氏のもとの同僚で、地質学・古生物学者である。
 この新訳が、脊椎動物の系統論という一分野を論じたものにすぎないとしても、わが国における生物進化の健全な見方を今後もささえる礎石の一つであってほしいと、私は切に願っている。
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