ドナルド・R・プロセロ(Donald R. Prothero)
1954年、アメリカ、カリフォルニア州生まれ。
約40年にわたり、カリフォルニア工科大学、コロンビア大学、オクシデンタル大学、ヴァッサー大学、ノックス大学などで古生物学と地質学を教えてきた。
カリフォルニア州立工科大学ポモナ校地質学部非常勤教授、マウントサンアントニオカレッジ天文学・地球科学部非常勤教授、ロサンゼルス自然史博物館古脊椎動物学研究部の研究員を務める。
『化石を生き返らせる─古生物学入門(Bringing Fossils to Life: AnIntroduction to Paleobiology)』や、ベストセラーとなった『進化─化石は何を語っているのか、なぜそれが重要なのか(Evolution:What the Fossils Say and Why It Matters)』など、35冊以上の著書がある。
また、これまでに300を超える科学論文を発表してきた。
1991年には、40歳以下の傑出した古生物学者に与えられるチャールズ・シュチャート賞を受賞。
2013年には、地球科学に関する優れた著者や編集者に対して全米地球科学教師協会から与えられるジェームス・シー賞を受賞。
江口あとか(えぐち・あとか)
カリフォルニア大学ロサンゼルス校地球宇宙科学部地質学科卒業。
訳書に、リチャード・ノートン著『隕石コレクター─鉱物学、岩石学、天文学が解き明かす「宇宙からの石」』(築地書館、2007 年)、ヤン・ザラシーヴィッチ著『小石、地球の来歴を語る』(みすず書房、2012 年)、デイビッド・ホワイトハウス著『地底─地球深部探求の歴史』(築地書館、2016 年)がある。
第1章
最初の化石・クリプトゾーン:ねばねばした膜の惑星
ダーウィンのジレンマ
クリプトゾーン──また新たな人騒がせ?
五億年前の景色が目の前に!
第2章
最初の多細胞生物・チャルニア:エディアカラの楽園
一つの細胞から複数の細胞へ
フリンダース山地の化石
エディアカラの化石が示す生命の飛躍
第3章
最初の殻・クラウディナ:小さな殻
殻をつくる者
「小さな殻」の出現
先カンブリア時代古生物学の巨匠、プレストン・クラウドの予想
クラウディナ──地球上で初の有殻生物
カンブリア爆発は「ゆっくり燃える導火線」
第4章
殻を持つ最初の大きな動物・オレネルス:「おお、三葉虫がうろつく地に我が家を与えよ」
太古からの使節団
三葉虫とは何か
オレネルスと最初の三葉虫
三葉虫に何が起こったのか
第5章
節足動物の起源・ハルキゲニア:蠕虫類なのか節足動物なのか?
バージェス頁岩の奇跡
石の中の幻影
節足動物とは何か
カギムシと節足動物
門の間の大進化
第6章
軟体動物の起源・ピリナ:蠕虫類なのか軟体動物なのか?
ミッシングリンク発見
最初の軟体動物
深海探検が生物学を変身させる
第7章
陸上植物の起源・クックソニア:海から顔を出す
不毛の地球
最初の陸上植物
直立の草分け──維管束植物
シルル紀の単純な植物──クックソニア
地球の緑化
第8章
脊椎動物の起源・ハイコウイクティス:魚臭いお話
ヒュー・ミラーと旧赤色砂岩
魚の時代
古代の魚釣り
脊椎動物とその先祖のつながりをたどる
魚臭いつながり
第9章
最大の魚・カルカロクレス:巨大な歯
伝説的なシャークトゥースヒルへの訪問
サメがはびこる中新世の海
なんてでっかい魚なんだ!
海の怪物
フェイク・ドキュメンタリー──ドキュフィクション
第10章
両生類の起源・ティクターリク:水から出た魚
水から陸へ
あなたの中の魚
第11章
カエルの起源・ゲロバトラクス:「フロッガマンダー」
「洪水の証人である人間」
両方で生きる
テキサス北部の豊かな赤色層
両生類が君臨していた時代
フロッガマンダーを探して
あとがき
訳者あとがき
もっと詳しく知るための文献ガイド
索引
地球の生命史はきわめて複雑な物語だ。現在、地球上にはおよそ500万から1500万種が生息している。今までに生息していたすべての種の99パーセント以上が絶滅したので、35億年かそれよりも昔に生命が誕生して以来、地球には数億種かそれ以上いたことになる。
そのため、絶滅した数億種の代表として、化石をたった25個(『11の化石・生命誕生を語る』『8つの化石・進化の謎を解く』『6つの化石・人類への道』3巻合わせた数)だけ選ぶのは簡単ではない。わたしは、進化の上で画期的な出来事を表す化石に重点をおくことにした。それらは、主要なグループがどうやってはじめに進化したのかという決定的な局面を表していたり、一つのグループから別のグループへの進化的な移行を明確に示していたりするものだ。それに加えて、生命というものは単に新しいグループの出現だけではない。驚くほど多様な体の大きさ、生態的地位や生息環境への適応が見られる。というわけで、最大の陸生動物から最大の陸生捕食者、絶滅した巨大な海の生物まで、生命が達成しうるもっとも極端な例をあげることにした。
当然のことながら、数個だけ選ぶには、多くの生物を泣く泣く除外しなければならず、何を含めて何を省くかひどく悩んだ。比較的完全でよくわかっている化石に重きをおいて、確実に解釈するのが難しい多くの断片的な標本を除外した。科学者ではない一般の読者のことを考え、おもに恐竜と脊椎動物を選んだ。そのため、古植物学者と微古生物学者の友人たちには、彼らの分野をそれぞれ一章ずつ簡単にしか扱わなかったことを謝らなければならない。
どうかこの選択の難しさを理解し、本書で語ることにした物語の生物を受け入れてほしい。それらの化石があなたの人生を明るく照らしますように。
本書はアメリカの古生物学者ドナルド・R・プロセロ著"The Story of Life in 25 Fossils: Tales of Intrepid Fossil Hunters and the Wonders of Evolution"(2015年、コロンビア大学出版)を3分冊したうちの第1巻です。原著は生物の多様性や進化上の画期的な出来事を表す化石、とりわけ移行をよく示す化石を25個取り上げた長編なのですが、分量が多いため、日本語版を出版するにあたり、『11の化石・生命誕生を語る[古生代]』『8つの化石・進化の謎を解く[中生代]』『6つの化石・人類への道[新生代]』の3巻に分けました。
その第1巻である本書では、最初期の化石からカエルの起源まで、時代でいうと先カンブリア時代からペルム紀までを扱っています(ただし、史上最大の魚に関する第9章はおもに中新世であるため、第3巻の新生代編に入れるべきなのですが、進化の流れを追う際に第8章の脊椎動物の起源の後にくるのが自然なことから、時代は飛んでしまいますが、この巻に含まれています)。
著者のプロセロ博士はカリフォルニア工科大学やコロンビア大学などで古生物学と地質学を教えてきた経験があり、論文も数多く執筆しています。また、研究のみならず、ライターとしても活躍し、地質学の教科書や一般書を含め35冊以上の著書があります。かなり前の話ですが、わたしがUCLA(カリフォルニア大学ロサンゼルス校)で受講した地球史のクラスでも、博士の教科書が使われていたのを覚えています。
全米地球科学教師協会から、地球科学に関する優れた著者や編集者に対して与えられるジェームス・シー賞を2013年に受賞しただけあり、その文章は飾り気がなく、平易で、くどい言いまわしや脱線がなく、非常に読みやすいものです。
本書にはたくさんの古生物が登場しますが、図版が多いので、化石や古生物に詳しくない読者の方でも楽しく読み進めることができるのではないでしょうか。また、生命の歴史と同時に、研究の歴史にもふれられ、過去の生物に対して現在のわたしたちが持っている認識にたどり着くまでに、相当な努力、そして回り道があったことがよくわかります。
では、おおまかに本巻の流れを追ってみましょう。
第1章では先カンブリア時代のストロマトライトが取り上げられています。生命の歴史の約85パーセントの期間、地球にはどのような景色が広がっていたのでしょうか。第2章はエディアカラ生物群です。単細胞生物から多細胞生物への飛躍を示す、動物の夜明けの生物たちとは、いったいどのようなものだったのでしょうか。第3章では殻を持つ最初の生物が取り上げられています。はたして、カンブリア爆発は本当にあったのでしょうか。第4章は三葉虫。地球で最初の殻を持つ大型動物です。第5章ではバージェス動物群から、節足動物の起源に迫ります。第6章では軟体動物の起源をさぐり、共通祖先から個別の門への進化を考えます。第7章では陸上植物の起源に迫ります。第8章は魚のような化石を使って、無脊椎動物から脊椎動物へのつながりを見ていきます。第9章は史上最大の魚です。第10章では両生類の起源に迫ります。水生から完全な陸生動物になるというゆるやかな変化は、どのくらい大変なものだったのでしょうか。第11章では、カエルとサンショウウオを結ぶ移行化石を取り上げます。
翻訳にあたり、著者とやりとりするなかで、地質年代が常に調整され、変化していることに改めて気づかされました。本書の年代が国際年代層序表とはやや異なる場合があるのもそのためです。それらの年代も後年には塗りかえられているかもしれません。
また、古生物の学名や体の構造の名称で、日本語になっていないものや訳語が見あたらないものに関してはカタカナで表記しました。索引に採用した古生物で、原著に学名表記のあるものは、調べ物などに活用していただけるように、学名も載せました。
さあ、11の化石を追いながら、遠い過去の世界を旅しましょう。化石の初心者ならば見る目が変わり、愛好家はますます化石に魅せられることでしょう。