| 中澤まゆみ[著] 2,000円+税 四六判並製 248頁 2015年2月刊行 ISBN978-4-8067-1489-7 最期まで自分らしく暮らす。 国が推し進める「病院・施設から在宅へ」の流れ。 選択肢は増えたけど、どれを選べばいいのかわからない。 「介護」は? 「医療」は? 元気なうちに「住まい方」と「しまい方」を考え、制度と実態を知って、自ら選択するための徹底ガイド。 自宅に暮らす両親の遠距離介護、認知症の友人のための施設探し、介護施設でのボランティアなど、著者自身が当事者として現場に深くかかわり、綿密な取材を重ねた。自宅か、高齢者住宅か、施設か、それとも「とも暮らし」か。これ以上ないわかりやすさで「終の住みか」を解説。 |
中澤まゆみ(なかざわ・まゆみ)
1949年長野県生まれ。雑誌編集者を経てフリーランスに。
人物インタビュー、ルポルタージュを書くかたわら、アジア、アフリカ、アメリカに取材。
『ユリ――日系二世NYハーレムに生きる』(文藝春秋)などを出版した。
その後、自らの介護体験を契機に医療・介護・福祉・高齢者問題にテーマを移し、
『おひとりさまの「法律」』、『男おひとりさま術』(ともに法研)、『おひとりさまの終活――自分らしい老後と最後の準備』(三省堂)、
『おひとりさまでも最期まで在宅』(築地書館)を出版。
序章
高齢期の住まいとは?
あなたにとって「終の住みか」とは?
高齢期の「住まい」、増える選択肢
「住まい方」、2度の選択期
第1章 自宅に住み続ける
「住み慣れた家で最期まで」の条件は?
シニアの生活にはこんなトラブルが
自宅をリフォームする
助成や減税制度を賢く使う
定年後の改築は「介護」を視野に
リフォーム、私の両親の場合
高齢期のリフォーム・ポイント
足腰が弱くなってきたときのリフォーム
介護保険を活用する
介護保険での住宅改修の手続き
いい業者をどう選ぶか
リフォームにかかるお金
暮らしが潤う一工夫
リフォーム資金が足りないときは
課題の多いリバースモーゲージ
自宅を活かすための支援制度
「最期まで在宅」のために必要な介護の知識
「在宅ケア」にかかるお金
介護保険の流れを知る
在宅医療の時代
在宅介護を助ける通所施設サービス
介護保険以外のサービスも上手に利用
《コラム》終の住みか、敦子さん(80歳)の選択
第2章 高齢者住宅に住む
自宅からの「住み替え」を考えるとき
住宅問題もおひとりさまの時代
「住み替え」で後悔しないために
高齢者住宅・施設の基礎知識
これだけの種類がある高齢者住宅と施設
高齢者の「住まい」の歴史
「住まい」としての高齢者住宅
有料老人ホームとサービス付き高齢者向け住宅のちがい
基準、管轄、法律のちがい
「介護付き」には「特定施設」の指定が必要
「介護付き」は2タイプ
「住宅型有料老人ホーム」と「サ高住」のちがいは?
「住宅型」と「サ高住」では「囲い込み」に注意
高齢者住宅の医療
医療法人の高齢者住宅の医療の質は?
老人ホームの課題、「認知症ケア」
高齢者住宅での「いい看取り」
「看取り」に取り組む新世代
高齢者住宅のバリエーション
収入に応じた家賃で住めるケアハウス
高齢者用公営住宅「シルバーハウジング」
「シニア向け分譲マンション」とは
見学する際のポイント
高齢者住宅選びの第一歩は「自分の条件」
高齢者住宅の情報収集法
ここまで事前にわかる「重要事項説明書」
高齢者住宅を見学するときに
契約する前に体験入居
《コラム》終の住みか、道子さん(72歳)の選択
第3章 介護施設に住まう
介護保険で入れる施設もさまざま
特養について知る
ところで、特養とは?
「集団ケア」から「個別ケア(ユニットケア)」へ
特養の料金
特養に申し込むには?
申し込む前に実際に見学を
特養の医療
施設のケアに疑問を感じたら
特養での看取り
老健について知る
「老健」とはどういう施設か
老健の3つのタイプ
療養型施設について知る
療養病床には2種類ある
ホントに廃止? 介護療養病床
看取りまで行う療養病床
認知症グループホームについて知る
グループホームに入った丸子さん
認知症グループホームとは?
第4章 ともに暮らす
高齢者が元気になる「まちの居場所」づくり/街中サロンなじみ庵
住民と一緒につくる高齢者施設/くわのみハウス
団塊夫婦の"夢"でつくったシニア村/龍ヶ崎シニア村
「終の住みか」は自分たちの手で/コミュニティーハウス法隆寺
「自分らしく自由な」とも暮らし/グループリビングえんの森
「ささえあい、たすけあいのまち」を組合員の手で/南医療生協
人生の終章を医療と介護のコミュニティケアで/ケアタウン小平
民家のちからを生かし、暮らしの中で「最期の日々」を/ホームホスピス「かあさんの家」
あとがき
高齢期の生き方を考えるとき、「住まい」の問題はどうしても避けて通れない。私たちはどこでどんなふうに暮らし、どこで死んでいくのか。
高齢期の住まい方には、やがてやってくる「死」への視点が欠かせない。それとともに欠かせないのが、そこに至るまでの長い長い「老後」への視点だ。
かつて都市部の住人が考えた理想の「終の住みか」は、郊外の庭付き一戸建てのマイホームだった。
社会人になって親元を離れ、アパートで新生活をスタートし、結婚したら交通の便のいい分譲マンションへ。
そして、子どもが大きくなると環境などを考えて郊外の一戸建て住宅に落ち着き、そこで孫に囲まれながら老後を迎える……。
それが「住宅双六」(典型と信じられてきた住宅の住み替えパターン)のアガリとされてきた。
しかし、核家族化と高齢化が進むとともにその概念が揺れてくる。「老後の世話」をしてくれるはずの子どもたちはアテにできなくなった。
子どもたちが家に寄り付かなくなれば、広い家はもてあましものと化す。2階家では家の階段を上り下りするのがだんだんつらくなるし、
伴侶が先に旅立ちおひとりさまになれば、とくに男性の生活は一気に不便になる。
加えて、いまや「人生100年」時代。寿命が延びれば、介護や医療のお世話になることも増えてくる。
高齢期の住まい方には、そうした「長い老後」のことも考えに入れていかなければならない。高齢者と呼ばれる65歳以上の人口は3000万人を超えた。
高齢化率も25%を超え、4人に1人が高齢者という社会。団塊の世代が「後期高齢者」(75歳以上)の仲間入りをする2025年には、3人に1人が高齢者、
その約4割がおひとりさまになると推計されている。高齢者の数が増えれば医療と介護のニーズも急増し、死亡する人の数も当然ながら多くなる。
そこで問題になってくるのが「人生の終わり」を迎える場所。日本では8割以上の人が病院で亡くなり、自宅で最期を迎える人は1割程度という時代が続いてきた。
ちなみにオランダやスウェーデンでは、病院での死亡は3〜4割、ケア付き施設が3割、自宅で亡くなる人は2〜3割と、病院を死に場所とする高齢者の割合は日本の半分に満たない。
しかし、「元気なうちは自宅、入院や介護が必要になったら病院か施設」というこれまでの高齢期の「住まい方」は、これから大きく変化していくことになる。
背景にあるのは、増え続ける医療費と介護費を削減するために、国が推し進めている「病院から在宅へ」「施設から在宅へ」の流れだ。
2014年4月に改定された医療保険の「診療報酬」には、今後の「超高齢・多死社会」に備える見直しがいくつも盛り込まれた。
医療保険の利用者が自宅や高齢者住宅、施設で暮らすことを基本とし、「ときどき入院、ほぼ在宅」と新聞が呼んだ、入院が必要でも極力短期間とする方向がますます進んでいく。
2015年に改定される介護保険では、特別養護老人ホーム(特養)への入居基準が従来の要介護1から要介護3へと引き上げられることになった。
特養には重度の人が多いとはいえ、介護度の低い人については、自宅と高齢者住宅を含めた「在宅」へと誘導されつつある。
しかし、その受け皿はどうなのか。急激な「病院から在宅・施設から在宅」への転換の中で、
このままでは人生の最期を穏やかに迎えられる「死に場所」が確保できるのだろうか、と不安を持つ人は増えている。
この本を書く前に、シニア世代の人たちに「あなたにとって、終の住みかとは?」という質問をしてみた。
もっとも多かったのが「最期のときまで安心して住める場所」「安心して死ねる場所」という答えだったが、明確なイメージを持っていない人も少なからずいた。
多くの人は、介護や医療が必要になっても自由気ままな生活ができる自分の住まいで、できるだけ長く暮らしていきたいと思っている。
いろんな調査を見ても「できれば最期まで自宅で」という人は6割以上いる。
団塊世代が高齢者の仲間入りをしたことを受け、この世代の意識調査を初めて盛り込んだ内閣府の「平成25年版高齢社会白書」では、
団塊世代の約7割が「今、住んでいる家に住み続けたい」と答え、「今、住んでいる家に住み続けるためにリフォームしたい」を加えると
8割以上の人が「最期まで自宅」志向を示していた。ちなみに団塊世代の持家率は86%と、高齢者の持家率81%を上回っている。
この意識調査では、回答者の約8割が「健康」と答えていた。だが、60代、70代では健康でも、80代になると医療や介護の必要な人が増えてくる。
からだが老化すれば自宅がバリアフリーならぬバリアフルになる。認知症が進めば生活管理がむずかしくなる。
老々夫婦やひとり暮らしの家庭では生活が不安になるなど、年を取るとともに自宅生活を困難にする要因も増えてくる……。
今は元気でも、いずれは他人の手を借りて生活する日がやってくる。
最期まで自分らしく暮らしたいと思うのなら、そのときに備え、元気なうちから、どこなら安心して住め、どこなら安心して死ねるのか、
「住まい方」と「しまい方」を自分自身のテーマとして考えていく必要がありそうだ。
高齢期の住まい方は、大きく3つに分けることができる。
@最期まで自宅で生活をする、
Aできるだけ自宅に住み続け、自宅で暮らせなくなったら介護付きの施設や高齢者住宅に移る、
B早目に高齢者住宅に移り、必要なサービスを受けながら暮らす。
とはいえ、選択はそう簡単にはいかない。住まい方を選んだつもりでも思いは揺れるし、高齢期になればなるほど予期せぬことも起こるからだ。
数年前から機会があるたびに在宅訪問医に依頼し、往診に同行をさせてもらっている。高齢者住宅や施設も足しげく訪ね、入居者の話を聞いた。
自宅療養をする人のお宅は150軒以上を訪問したが、実にさまざまな住まい方があった。
介護を機に自宅をリフォームし、家族に囲まれながら療養生活を送っている人もいた。
いっぽう、おひとりさまや老々介護の夫婦では不自由な自宅をそのまま使っている人が多く、中には脳梗塞による片麻痺や糖尿病などで歩行障害をもったために、
エレベーターのない古いマンションの3階、4階から降りられなくなってしまった人もいた。
そんな現状を見ると、自宅に住み続けるためには、ある程度の準備が必要だと思い知らされる。
高齢者住宅に住み替える人の考え方もさまざまだ。高齢者住宅への入居を考える時期は80歳を超えてから、という人が圧倒的だが、
60代で有料老人ホームに住み替えたおひとりさま女性の話も何人か聞いた。
美穂子さん(70歳)は離婚を機に62歳で郷里に戻り、母親の暮らす介護施設の近くの有料老人ホームに入居した。
母親を看取ったあとは病院のボランティア、趣味の英会話、旅行などを楽しみながら、ホームを自宅として暮らしている。
同じく離婚組の美和さん(65歳)も慰謝料を元手に早ばやと、東京からそう遠くないリゾート地の有料老人ホームに入ることを選んだ。
定年まで続けていた仕事を生かしてまちおこしにかかわるかたわら、農園グループに入って野菜づくりも楽しんでいる。
ずっとおひとりさまの千夏さん(61歳)は、退職金をつぎ込んで東京の下町から大好きな京都の有料老人ホームに移り住んだ。
今は毎日のように京都の散策を楽しんでいるが、まだ友人がほとんどいないので、これからは友人づくりが課題になってくる。
こうした女性に共通するのは、やがてやってくる介護を早くから視野に入れていること。ホームには介護フロアがあり、
介護状態になったらそこに移ることができるが、できれば今の部屋で死にたいというのが3人の希望だ。
そういう意味では彼女たちは「最期まで在宅」派と言えるかもしれない。
しかし、高齢者住宅への住み替えはうまくいかないことも多い。とくに問題になるのが、ひとり暮らしが困難になったときの「住まい」として、
国が「早目に住み替えを」と勧めているサービス付き高齢者向け住宅(サ高住)だ。
サービス付き高齢者向け住宅や住宅型の有料老人ホームのサービスは、「見守り」と食事提供を含む介護以外の「生活支援」のみで、
医療と介護については「自宅」と同じように自分で選択し、依頼するのが基本となっている。
しかし、「サービス」に介護が含まれていない、ということを理解している人は少ない。
こうした高齢者住宅については第2章で詳しく触れるが、「わかりにくさ」に加え、「これが暮らしの場?」と言いたくなるような部屋の狭さや、
基本的な見守りと生活支援サービスのばらつき、さらには地域コミュニティとの断絶など、そこが「終の住みか」になるためには多くの課題がある。
いっぽう、カテゴリーとしてはサービス付き高齢者向け住宅や住宅型有料老人ホームでも、
自分たちの理想の「終の住みか」をつくろうと取り組む人たちも増えてきた。
最期まで住めるグループリビングや、多世代型共生住宅も少しずつだが広がっている。
そういう意味では、高齢期の「住まい」の選択肢は増えてきた。あとは、どうやって自分が「安心して死ねる」住まいを見つけることができるかだ。
高齢期には「自立期」と「介護期」の2回、住まい方を選択する時期がやってくるといわれる。
多くの人が高齢期の住まい方を最初に考え始めるのは、「定年」の声を聞き始めたころ。
この時期はまだまだ元気でからだも自立しているので、介護のことはあまり視野に入れないまま、「定年後の住まい」を考える人が多い。
その土地で生まれ育ち、愛着のある自宅にずっと住み続けたいと思う人は、家のリフォームや、2世帯住宅への改築を考えたりするだろうし、
地域にそれほど愛着のない転勤族は田舎への住み替えや、逆に便利な都会のマンションへの住み替えを考えるだろう。
そして、「からだの不安」を感じるようになると、「ここにずっと住み続けることができるのだろうか」という第二の選択の時期がやってくる。
買い物・通院などの外出は不自由なくできるのか、家はバリアフリーになっているか、近所や地域とのつながりはどうか……など、
元気なときには考えたこともないことが問題になってくる。
有料老人ホームや高齢者住宅、介護施設などに住み替えをする場合も、高齢になればなるほど順応性がなくなるため、
若いときのように「新天地で第二の人生を」と簡単にはいかない。
「住み替え」のタイミングも、元気なうちからする「早目の住み替え」と「介護が必要になってから」のふたつがあるだろう。
早目の住み替え先で大切なのは、「自立した生活」を楽しめることと「安心感のある暮らし」が続けられることだが、
介護が必要になってからの住み替え先では、それに加え、「ケアの質」も大切になってくる。
もうひとつ大切なのは、たとえ施設であっても、最期まで安心して「自分らしい生活」が続けられることだ。
20年以上前のことだが、「人が主(あるじ)と書いて住(すまい)という」という建設会社のコマーシャルがあった。
本書では、第1章を「自宅で最期まで」として、自宅でずっと生活し続けるためのノウハウを、第2章の「高齢者住宅に住む」では高齢者住宅の選択肢を、
第3章「介護施設に住まう」では介護保険で利用できる施設を、そして第4章「ともに暮らす」では新しい高齢期の住まいを紹介しながら、
高齢期の「住まい」のあり方を考えてみた。
高齢者住宅であろうと施設であろうと、そこが「居住者自身が主(あるじ)となる住まい」であり、「暮らしの場」になっているかどうか。
人が安らかに生涯を終えるための「終の住みか」には、そうした視点が求められている。