| 「原発をやめる100の理由」日本版制作委員会[著]西尾 漠[監修] 1,200円+税 A5判並製 208頁 2012年9月刊行 ISBN978-4-8067-1448-4 ドイツの小さな村シェーナウの人びとがチェルノブイリ原発事故後に、自然エネルギーによる電力供給会社を立ち上げた。 今やドイツ全土で約13万戸の顧客を抱えるまでに。 本書は、「電力の革命児」と呼ばれている彼らの経営する電力会社が、原発からの電力を買うか、自然エネルギーからの電力を買うか、お客さまに選んでもらうために配布している冊子「原子力に反対する100個の十分な理由」に、日本の実情をつけくわえたものだ。 ウラン採掘から使用済み核燃料、再処理工場、原発の本当のコスト、被ばく労働など、この1冊で原発の問題がまるごとわかる。 原子力のない未来に向かう希望の本。 小出裕章氏インタビューも掲載。 |
スリーマイル、チェルノブイリ、そして福島と、原子力産業は世界中で放射能に汚染された土地をつくり出し、その地に住む人びとの平穏な生活を奪い、さらには病気、苦痛、死をもたらしました。
このような出来事に対して、世界中の人びとが立ち上がり、世界のいたるところから、この丸い地球を包みこむように脱原発への連帯ネットワークが繋がっていけばうれしいです。
シェーナウは、ドイツの南西部に位置するバーデン=ヴュルテンベルク州にある人口2500人あまりの小さなまち。そこで、チェルノブイリ原発事故後に立ち上がった住民たちによって設立されたのが、再生可能エネルギーによる電力供給会社、シェーナウ電力会社(EWS)です。
私たちは、脱原発への啓蒙活動に役立ててほしいと「原子力に反対する100個の十分な理由」という冊子をつくりました。
この活動を私たちは意義あるものと思っていますし、この冊子が、すでにたくさんの言語に翻訳され、世界中で受け入れられていることをうれしく思っています。
このたび、「100の理由」日本語バージョン(http://100-gute-gruende.de/pdf /g100rs_jp.pdf)に加え、さらに日本の状況に合った説明を加えた本書もでき上がりました。本書の刊行によって、原子力のない未来へ向かって、さらに一歩進むことができたと思います。
世界中でよりたくさんの人たちが、私たちとともにこの道を歩んでいくことを願っています。
心からの願いをこめて。
ウルズラ・スラーデック
(翻訳 及川斉志)
ウルズラ・スラーデックさん(シェーナウ電力会社〈EWS〉協同組合理事)からのメッセージ
はじめに──電力会社を立ち上げたドイツの小さなまちシェーナウと私たち
原発をやめる100の理由
第1章 燃料とウラン採掘
1 原発の原料ウランは輸入と多国籍企業頼み
2 ウラン産出は周辺住民の生活を破壊する
3 水を大量に消費するウラン鉱山
4 放置される鉱山の放射性汚泥
5 がんをひき起こし、格差を生み出すウラン鉱山
6 効率が悪いうえに、死の大地を生み出すウラン採掘
7 汚染処理にかかる莫大な経費
8 需要より少ないウラン供給 ウランも「限りある資源」
9 もうすぐ終わりがくるウラン埋蔵量
10 大惨事を招きかねないウランの輸送
11 核兵器にもなるプルトニウムすら一般道路を通る
第2章 安全基準と健康被害
12 原発周辺の子どもにがんが多発している
13 平時も放射性物質を放出し続ける原発
14 安全基準値設定の目安は健康な成人男性
15 被ばく線量が低いからといって安心できない
16 見逃せないトリチウムの危険性
17 原発の温排水が魚の酸素を奪う
18 多くの非正規労働者を危険にさらしている
19 距離をおきたい原発
第3章 事故と大災害のリスク
20 安全基準以下の既存原発 合格水準の新設は無理
21 老朽化が招く高いリスク
22 報告義務のある事故・故障
23 在庫切れの部品とヒューマンエラー
24 30年前のテクノロジーとは石器時代の産物
25 地震によるリスク お粗末な地震対策
26 原発に飛行機墜落 それは想定外で大丈夫?
27 すでに崩壊しかかっている新型原子炉
28 大事故で出る保険金は損害額のわずか0.1パーセント
29 最悪の事故はいつ起きてもおかしくない
30 安全性ランキング 危険性ランキング
31 雷、豪雨、噴火……自然災害に弱い原発
32 爆発が起きても利益を優先 安全は二の次
33 人的ミスは避けられず、それでいて人頼みの原発
34 電力会社の規則違反は日常茶飯事
35 些細な電気系統のミスが深刻な事態を招く
36 ドイツでの大事故はチェルノブイリよりも深刻
37 大事故が起これば数百万人に健康被害がおよぶ
38 破局的な大事故による暮らしの喪失 故郷の消滅
39 緊急事態において数時間で住民が避難するのは不可能
40 ヨウ素剤は事前配布されなければならない
41 大事故は国民経済を崩壊させる
第4章 放射性廃棄物と処分
42 増える一方の膨大な放射性廃棄物
43 放射性廃棄物は無害化されたことはない
44 放射性廃棄物の最終処分は場所も技術も未解決
45 放射性廃棄物は100万年先まで危険
46 放射性廃棄物を埋めるのに適した土地はどこにもない
47 地球上で見つけられる? 最終処分場の適地
48 放射性廃棄物の近くに住みたい人など一人もいない
49 信頼性に欠ける放射性廃棄物容器の安全検査
50 ごみも危険も増大させる再処理工場はなぜ必要?
51 再処理工場は放射性物質の大量拡散装置
52 再処理工場に貯められていく放射性廃棄物
53 旧東ドイツの処分場が象徴するもの
54 高レベル廃棄物の処分地は地質より都合で選ばれる
55 中間貯蔵施設の危険性
56 放射線を遮断できない核燃料容器キャスク
57 中間貯蔵容器の寿命 実証はこれから
58 専門家の口を封じて安全性審査 決め手はお金と政治
59 最終処分場は不安定な地層でもおかまいなし?
60 放射線それ自体も最終処分場を破壊する要因だ
61 安全性の乏しい地層にどれだけ埋め捨てるのか
62 日用品に化ける放射性廃棄物
63 弱いところに押しつけられる放射性廃棄物
64 放射性廃棄物の処分法は幻想の世界に到達?
65 夢物語の技術 放射性物質の分離・変換
第5章 地球温暖化と電力供給
66 原子力発電の電力は安定供給にはほど遠い
67 原発が止まっても生活に支障はない
68 原発は地球温暖化阻止に効果なし
69 原発こそが再生可能エネルギーの障害だ
70 原子力発電は非効率 エネルギー浪費の典型
71 エネルギー浪費へと消費者を誘う原発業界
第6章 権力と利権
72 国が税金を使って原発を全面支援
73 原発事業の優遇税制
74 核廃棄物処理も廃炉費用も非課税の恩恵
75 巨額の開発・研究費用を吸い上げる原子力発電
76 運転年数が延びるほど儲かる原発企業
77 市場の支配者が決める電気料金
78 商業ベースでは成り立たない新規原発
79 巨大寡占企業と電力供給の強権構造を支える原発
第7章 自由と民主主義
80 幸福と平和を望む人びとの権利を脅かす原発
81 私たちの生存権を脅かす原発
82 脱原発運動を封じこめる政府
83 何十年にもわたって社会を分断する原発
84 原子力ムラはどこの国にも存在する
85 原発がなければ電気が止まるというつくり話
86 原発の賛否 誘導される世論調査
87 原発を使うことは倫理に反している
第8章 戦争と平和
88 平和利用と軍事利用 区別できない原子力
89 技術、経済性、安全性……破綻している高速増殖炉
90 テロにつながる内部脅威 万全な管理は可能?
91 攻撃の標的にもなりうる原発
92 燃料の製造過程で生まれる劣化ウラン弾
93 限りある資源、ウランをめぐる紛争
第9章 エネルギー革命と未来
94 再生可能エネルギーによる電力100パーセント供給は達成可能
95 共存できない再生可能エネルギーと原発
96 新技術開発や投資を滞らせる原発
97 エネルギー源としてとくに優秀でない原子力
98 世界的に見て原発は消えつつある
99 雇用創出のじゃまとなる脱原発の先延ばし
100 エネルギー革命の障壁となる原発
101 あなたはどう思いますか?
COLUMN
「燃料不足を救う」とは――まやかしの核燃料サイクル
企業ぐるみのデータ改ざん 事故隠し
原発も危険 だが桁ちがいに危険な再処理工場
原発立地自治体は本当にうるおっているの?
電力会社に顧客として意思表示する方法
巻末付録──原発のない社会に向けて
小出裕章さんインタビュー
それぞれの場所で、それぞれの個性を生かして、原発を必要としない世界をつくる
原発の真実をもっと知りたい人のために
西尾 漠さんお薦めの原発本
シェーナウ電力会社(EWS)をもう少し知るために
日本版制作委員会メンバーから〜[おわりに]にかえて
電力会社を立ち上げたドイツの小さなまちシェーナウと私たち
静かに、しかし、確実な勢いで広がっている自主上映のドキュメンタリー映画「シェーナウの想い」をご存じですか?
チェルノブイリの事故の後に原発の危険性に気づいた、ドイツ南西部の渓谷にあるシェーナウのまちの住民たちが、「電力の革命児」として知られるようになるまでの記録です。
彼らは、どうやったら原発に決別して再生可能なエネルギーを選べるようになるのか、さまざまな試みを始めます。そして、やがて自分たちの電力会社を立ち上げ、ドイツ全土に電力を送るまでになっていくのです。
2011年の秋のことです。1通のメールが送られてきました。
そこにはドイツのシェーナウ電力会社(EWS)がつくった冊子「原子力に反対する100個の十分な理由」を日本語訳したサイトが示されていて、「これを本にしたい」とありました。
そのサイトは、福島の原発事故で苦しむ日本のために、シェーナウ電力会社がドイツ国内の日本人グループに日本語訳を依頼して、インターネットで公表したものでした。それを発見した友人が、知り合い数人に出版に協力してほしいとメールで呼びかけたというわけです。
集まったメンバーは、ほとんど初対面同士、暮らす地域も職業もまちまちです。また、原発に関する専門家は一人もいませんでした。全員に共通していたのは、原発はいやだと思っていること、福島の事故の後、「原発を止めるために何か有効な手段はないのだろうか」と悶々としていたことです。
「原子力に反対する100個の十分な理由」は、原発の問題を、ウラン採掘をはじめ、通常の稼働中でも放射性物質を放出していること、10万年以上も影響が残る使用済み核燃料の処理問題まで取り上げています。また、原発以上に大きな再処理工場の危険性や、原発の本当のコスト、被ばく労働などにもふれています。
1冊で原発の問題点が網羅されているのが、何より魅力でした。
でも、もともとドイツでつくられたものなので、語られているのはドイツの事例です。日本で本をつくるなら日本の事情がもっとわかるようにしたいと思いました。そこで考えたのは、ドイツの事情(本文の「ドイツから」の部分)に対応させて、日本の状況を「日本では」と解説していくスタイルでした。
けれども問題は山積み。
専門用語を理解すること、原子力にかかわる法律、日本の実態の調査・資料探し、次々と難問が目の前に現われました。本当に本ができるのだろうかと頭を抱えていたときに、資料探しや科学的記述のチェックなどをしてくれる強力な仲間が次々と加わり、そのうえ、原子力資料情報室の西尾漠さんはこころよく監修を引き受けてくださったのです。
そんなさなかにメンバーの一人がYou Tubeで見つけたのが、冒頭でふれたドキュメンタリー映画「シェーナウの想い」でした。
まず、最初に映し出されるのは、のどかな渓谷の景色、伝統的な美しい町並みです。続いて、チェルノブイリの事故直後の当惑を、シェーナウの女性たちが語ります。
「この事故に私たちは震撼させられました。この大惨事がどういう意味を持つのかわかるにつれて、とっても怖くなってきました。正直いうと、それまで真剣に原発について考えたことなんてなかったのです。でも、2000キロも離れた私たちのところにも、実際に悪い影響が出るような量の放射性物質が、飛んできて、はっと目が覚めました」
「もう庭の野菜をとってサラダにしたり、子どもと外で遊べないなんて信じられませんでした」
この冒頭の言葉を聞いて、「これはまさに福島の事故の影響を恐れる私たちとまったく同じだ」と思いました。
しかし、事故の直後から、シェーナウの人びとは悩んでばかりではありませんでした。シェーナウでは原発事故を心配した親たちが集まって、「原発のない未来のための親の会」を結成し、被ばくを軽減するための情報を発信したり、節電コンクールというような、楽しみながら参加できる催しを始めます。
チェルノブイリの子どもたちのためにキエフの病院を支援し、子どもたちをシェーナウに呼んで、自然のなかで遊んでもらうような取り組みも行ないます。
この住民グループにとって、チェルノブイリは他人事ではありませんでした。なぜなら、シェーナウはフランスにあるフェッセンハイム原発から、25〜35キロ圏内にあるからです。
そして、チェルノブイリの悲劇を繰り返してはいけない、どうしたら原発の電気を使わないですむのか、再生可能エネルギーの電力を使う方法はないのかと、思案を始めます。
住民グループは、電力供給会社に環境にやさしい電力の供給を求めて、脱原発、エコ電力の買い取り価格の引き上げ、節電を促す電気料金プランという、3つの要求をしました。
「そのためには、まったく新しい料金体系が必要でした。そこで『基本料金を安くしてください。その分、電力使用料金を少し高くすればいいんです』と電力会社のKWRにお願いしました。しかし、冷たくあしらわれてしまいました」
それも当然です。電力会社は万国共通、どんどん電気を使わせて、自分たちの利益を増やしたいのですから。しかも、シェーナウに電力を供給している電力会社で、原発にも関係しているラインフェルデン電力会社(KWR)は、住民グループの要望を袖にしただけでなく、とんでもない提案をしてきました。4年後に切れるシェーナウとの契約を20年契約にするなら、まちに約500万円寄付するというのです。
住民グループはあわてました。独占状態を20年も長引かせては、自分たちが望む再生可能なエネルギーを手に入れることが困難になってしまいます。
そこで住民グループは、数週間で500万円ものお金をかき集めて、まちに寄付しました。その場はどうにか、KWRの狙いを阻止できたわけです。
ところが、まちの議会はKWRとの契約を結ぶことを早々に可決してしまいます。対する住民グループは、それに異議を唱え、住民投票でそれを撤回させようとします。住民投票で勝利するために、彼らは街角でコンサートを行ない、Tシャツをつくり、投票で住民側が勝利するための「Ja(イエス)」をアピールしました。
小さなまちは、賛成派と反対派に二分されます。きっと、のどかなシェーナウがそれまでに経験したことのないような、深刻な事態だったことでしょう。
もちろん、KWR側のキャンペーンもありましたが、住民グループは5割以上の票を得て勝利します。
次に彼らがとった選択は、4年後の契約見直しの前に自分たちの電力会社を立ち上げてしまおうということでした。
その過程では、電力供給者としての認可を得ることや、送電網の買い取り、そのための資金集めや賛同者集めのキャンペーンなど、さまざまな課題が持ち上がります。再生可能エネルギーの知識を普及するために、全国行脚の講演会も行ないます。むろん、電力会社や専門家たちとの熾烈な駆け引きが続きます。
脱原発を掲げる住民たちが繰り出すユニークな方法も見どころです。
私たち本書の制作メンバーは、このドキュメンタリーにおおいに力をもらいました。
シェーナウの人びとにそれまで以上に親しみを感じ、ドイツ語版「原子力に反対する100個の十分な理由」の裏にあるドラマにぐいぐいと引きつけられる思いでした。
また、ドイツで電力自由化が達成できたのは、成熟したドイツの国民性があったからこそと思っていたのですが、ドイツにも日本同様の「原子力ムラ」の構造があることを知りました。それに対して市民が抵抗する難しさも同じであることがわかりました。
それでも粘り強くしなやかな行動によって、原発のない世界は市民の手でつくることができるのだということを、シェーナウの人びとは教えてくれたのです。
福島第一原発の事故が起こるまで、「絶対に安全」という「安全神話」のもと、原発の多くのリスクが隠されてきました。事故以前に伝わってきたことといえば、いかに安全でクリーンでコストが安いか、人びとの暮らしを豊かで便利にしてくれるか、ということばかりでした。それが、福島の事故で一変し、多くのリスクが明らかになってきたのです。
一度考えられるすべてのリスクを整理し、そのうえで、これからどういう選択をしていくのかを考えていかなくてはならないのだと思います。
本書は、その参考にしていただくために、原発のリスクについて、丹念に資料にあたり、調べ、執筆したものです。
どうか本書がきっかけとなり、未来に大きな負の遺産を残す原発ではなく、再生可能な自然エネルギーからつくられた電気を使えるような社会がやってきますように──日本にも、シェーナウのような志の高い電力会社がたくさん生まれますように。
「原発をやめる100の理由」日本版制作委員会