私は、鳥取環境大学で、専門である動物行動学と人間比較行動学(両方を合わせて人間動物行動学とよんでいるが)、そしてそれらを基盤にした野生動物の保護の研究と教育と実践に、日夜、励んでいる。(本を読んでいただければ、どのように“日夜、励んでいる”のか、少しはわかっていただけると思う。)
先日、大学の入学式があった。ういういしい新入生を見て私もうれしくなったのだが、その新入生に大学が配布した資料のなかに、「クラブ活動紹介」という冊子があった。
私もいろいろな自然系や体育系の顧問をしているので、部員たちがどんな紹介をしているのだろうか、と思って、ページをぱらぱらめくってみた。
……と、一○ページ目に出ている、ある部のところで目と手がとまった。
そこには、「ヤギ部」の紹介があった。
「全国初“ヤギ”のことを考えた部活。その名も、『ヤギ部』」
という見出しで、現在、暮らしている三頭のヤギが、写真入で紹介されている。その下に、それぞれのヤギの「名前」と「特徴」が記載されている。たとえば、「名前:ヤギコ」「特徴:でかい、こわいetc...」などなど。
そしてそのページの一角に、どうもヤギとは違う哺乳類も一頭紹介されている。
川で網を振っているホモ・サピエンスのようだ。
なになに「名前:小林朋道」
私のことではないか!
「特徴:動物を見せたら喜ぶ」? 動物を見せたら喜ぶ!?
…………どうして学生たちはそんなにも小林朋道の本質を見ぬけるのだろうか。
私は、ひたすら完敗した。完敗である。
まーそんなわけで、私は毎日、自分で動物を見たり、触ったり、そして、学生に“動物を見せてもらって喜んでいる”。
最近、学生に見せてもらって喜んだのは、なんと言っても、カヤネズミだろう。
詳しくは本のなかに書いたが(だからこの本を買って、中身も読んでいただくことをお勧めする)、カヤネズミというのは、日本でいちばん小さいネズミで、カヤ(ススキ)の葉を編ん
で巣をつくり、生活している。現在、全国の里山や河川敷の破壊によってカヤの原が減少し、それにともなって、カヤネズミも減少している。
そんなカヤネズミを、大学のキャンパスに雪の残る二月に、学生二人が私のところへ“見せに”来てくれたのである。私は、大変“喜んだ”。
そう、「特徴:動物を見せたら喜ぶ」に間違いありません。
この本は、そういった大学や、大学の周辺で起こる野生動物(一部、家畜動物)をめぐる“事件”をエッセー風に書いたものである。「動物」のなかにはもちろんホモ・サピエンスも含まれる。
ところで断っておくが、私にだって、一応、研究者としてのプライドというものがある。
だから、この本は単なる動物観察記ではない。事件のなかに、動物行動学者としての大変鋭いまなざしや、人間比較行動学の先端の知見が、そこらじゅうにちりばめられているのである。読んでけっして損のない本なのである。
・・・・・・・・・・・。
・・・・・・・・・・・。
まー深くは考えまい。
それにしても、「特徴:動物を見せたら喜ぶ」とはすばらしい。
この本を書いた私の思いは、私の文章(と少しばかりの写真)で“動物をお見せして”読者のみなさんにも、“喜んで”いただければ、という思いである。そして、動物やホモ・サピエンスについての知識とともに、元気!を感じていただければとも思っている。
小林朋道
|