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地獄蝶・極楽蝶

【内容紹介】本書「まえがき」より


 ある時ふと入手して読んだ「尾三気象俚諺」という、愛知県の天気予報についての民間伝承を集めた小冊子は、大変私の興味をひいた。「夕焼けは翌日晴れ」「猫が顔をなでると雨が近い」「蜂が低く巣を作るとその年は大風が吹く」など科学的に分析できるものから、どう考えても迷信としか思われないものまで、沢山の事例が分類整理してあり、昔の人たちが経験と勘を頼りに予測してきた歴史がうかがえて、思わず読みふけったものである。
 そんななかに「極楽蝶早朝より出づるは晴天」というものがあり、張りめぐらされた私のアンテナにひっかかった。極楽蝶とはききなれない名であるし、私がそれまでに調べたなかにも出てきていない。これはいったいどんな蝶であろうと、私は永い間疑問に思っていたが、偶然の機会から、岐阜県関ヶ原近くで明治の末期にカラスアゲハ、アゲハ、キアゲハなどの揚羽蝶全般をこのように呼んでいたことがわかった。
 そして一方、全国方言辞典には「ぢごくてふ」(地獄蝶。上総および下野鹿沼地方)の方言がある。これはひょっとしたら、表裏一体のものではないかと、私の直感が働き、それからこれら両者の関係について、資料収集と推理がはじまったのである。
 この書は、その過程と現在までの成果を中心として、前後に蝶にとらわれた何人かの人たちを描き、特に私の身近にあって、あたかも蝶に化身して冥界に去ったかのような先輩たちの鎮魂に意を注いだ。
 相変わらず終始一貫蝶のことばかりで、よくもまあこんなに蝶にまつわる話があるものだと思われる方が多いであろうが、私にとって、どんな見方であろうと、この本を手に取って、少しでも蝶に興味をもって下さる方が増えるならば、大変うれしいことである。
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