![]() | ひきちガーデンサービス 曳地トシ+曳地義治[著] 2,000円+税 A5判並製 148頁 2023年10月刊行 ISBN978-4-8067-1658-7 庭を使いやすく! 自然の力を活かして! つながりをつくる! 庭で実現するオーガニックな生き方。 無農薬・無化学肥料で暮らしと自然をつなぐ庭をつくるオーガニック植木屋が教える、 あると便利な庭の設備、庭をもっと楽しむコツ、「いざというとき」への庭での備え。 ベランダガーデニングから地域をつなぐコミュニティ・ガーデンまで、 あなたの庭がもっと輝くデザインを提案します。 |
ひきちガーデンサービス
夫婦ふたりで、個人庭を専門に、農薬や化学肥料を使わない庭の管理や、本物の素材を活かし、安全で使いやすい庭、バリアフリーガーデン、自然の恵みを利用した循環型の庭づくりなどを提案している。
2005年、「NPO法人日本オーガニック・ガーデン協会(JOGA)」(joga-garden.jp)を設立。
代表理事と理事を務める。庭からの環境保護という考えを広めていくため、オーガニック・スプレー(自然農薬)のつくり方や庭の小さな生態系の大切さを伝えようと、講演会の講師を務めたり、雑誌や新聞などにコラムを執筆したりしている。ふたりの共通の趣味は俳句。同好の士であり、ライバルでもある。
おもな著書に『オーガニック・ガーデンのすすめ』(創森社)、『はじめての手づくりオーガニック・ガーデン』(PHP研究所)、『オーガニック・ガーデン・ブック』『無農薬で庭づくり』『虫といっしょに庭づくり』『雑草と楽しむ庭づくり』『二十四節気で楽しむ庭仕事』『鳥・虫・草木と楽しむオーガニック植木屋の剪定術』(以上、築地書館)がある。
hikichigarden.com
曳地トシ(ひきち・とし)
1958年、神奈川県真鶴町生まれ。植木屋のおかみ業にあきたらず、「高いところ・泥汚れ・虫」が三大苦だったにもかかわらず、無謀にも現場に出て現在にいたる。ますます庭仕事のほんとうの愉しさにはまっている。俳人協会会員。
曳地義治(ひきち・よしはる)
1956年、東京都立川市生まれ。子どものころは暇さえあれば、鉛筆で広告の裏に絵を描いていた。昔からデザイン関係の仕事に関心をもっていたが、木工業、ログビルダーなどを経て、植木職人およびガーデンデザイナーとなる。
はじめに 庭に出てみよう!
庭でのオーガニックとは
多様であること
循環すること
地域特性があること
庭に求めるのはどんなこと?
庭づくりの前に
オーガニック
サステナブル
サバイバル
ユニバーサルデザイン
つながり
オーガニック植木屋の庭 暮らしを楽しむ
我が家の庭
生きることを庭から考える
中間領域 家と庭をつなぐ
縁側とウッドデッキ
土間、サンルーム、風除室
園路とアプローチ 動線を意識する
素材
土の園路
実用性を考える
植栽 見栄えと管理をバランスよく
維持管理のコツ
樹種と場所の選び方
花壇
フェンス類 どのくらい遮るか
素材選び
生け垣とウッドフェンス
竹垣
目的で構造を選ぶ
収納 仕舞う場所から楽しむ場所へ
何を収納するか?
収納をフォーカルポイントに
広さと用途のグレードアップ
土について
土中のネットワーク
劣化する土
団粒構造の土
土の改善法・竹筒埋め込み法
化学肥料と有機肥料
肥料と堆肥との違い
有機質の堆肥なら安全か?
生き物の来る庭
鳥
虫
生き物を招く
ペット
循環する庭
落ち葉
生ごみコンポスト
雨水タンク
バイオネスト
トイレ
菌類
自然エネルギー 地球の力を借りる
ソーラーパネル
太陽温水器
蓄熱タイルとサンルーム
薪
ソーラークッカー
風力発電
日除けと風除け
水力発電
火を楽しむ庭
火を燃やす場所
薪
着火道具
物を燃やす注意点
水を楽しむ庭
水道
雨水タンク
あると楽しい設備
グリーンインフラと雨庭
日々の手入れと移り変わり 庭を長く楽しむために
雑草対策
樹木の剪定
リフォーム
スモールガーデン・ベランダ
狭い庭
ベランダ
いのちのめぐる庭 庭から地域を元気に
空き地や公園
コミュニティ・ガーデン
果樹やハーブ・草花との上手なつきあい
地域通貨
里山
文明のリスク なぜ庭をつくるのにオーガニックが大切なのか
有機という言葉
予防原則という考え方
放射性物質の問題
ほんとうに汚いもの
新しい庭の文化
[COLUMN]
庭を自分の居場所にする
クラインガルテン
ナチュラルステップ
「グリーンゲリラ」と「ゲリラガーデニング」
ボスニア・ヘルツェゴビナのコミュニティ・ガーデン
オーガニックなお金
パーマカルチャーとトランジション・タウン
参考文献
写真をお借りしたみなさま
おわりに
索引
庭に出てみよう!
庭はもっとも暮らしに近い身近な自然。しかし、その庭が、多くの家庭で「お荷物」になっているのを、私たちは目の当たりにしてきた。親の代からの和風の庭、イングリッシュガーデンがはやったときに力を入れてつくった庭、そもそもスペースをつくったはいいけれど何をしていいか皆目見当つかず、放置されたままになっている庭……。それらは、雑草だらけになっていたり、不用品置き場になっていたりと悲惨な状況だった。
日本の国土は狭い。そんな狭い日本にあって、庭のスペースがあるということは、とてもラッキーなことだと思う。せっかくだったらそんなスペースを多くの人に楽しんでもらいたい。そのためには、何が必要かと考えてみたら、「使いやすい」ということだった。水場が地面の蓋を開け閉めして使う散水栓しかなく、バックヤード(裏庭)もない日本では、肥料や用土がビニール袋に入ったまま、庭の隅に積み上げられる。使わない植木鉢も野ざらしのままだ。花壇はしゃがまないと手入れもできず、足腰が弱ってくると、とたんにガーデニングが苦行になる。
そのような悩みを解決し、家の中とは違う開放されたスペースとして、庭を存分に楽しんでもらいたい。本書ではそんな庭のつくり方、使い方を実例とともに紹介する。
もうひとつ、数々の大震災や毎年のように発生する類例のない災害を経て、私たちは暮らしの中に、「いざというときに備える」という意識をもたなければならなくなった。庭づくりを生業とする私たちへの依頼も「雨水タンクを設置しておきたい」「菜園をつくってほしい」などというものが増えてきた。いざとなったら、自分が頼るべきところは、自給や循環、自然の恵みかもしれない……と、気づき始めた人が多かったのではないだろうか。
一方で、それら「人の役に立つ」ことだけが庭の意味ではない。庭は地球の一部なのである。この地球上に最初の生命が誕生して以来、約40億年の時間をかけて、生命は分化し、進化を重ね、多様な生命圏と自然環境を形づくってきた。その最初の生命が誕生した奇跡を、この地球上のすべての生命が分かち合っている。庭の植物や虫や小鳥、そして人間もひとつの同じ祖先からその命を引き継いでいるのだ。多様な生命はともに進化してきた。植物の葉と人間の肺はともに進化してきたことにより二酸化炭素と酸素をやりとりすることができる。道端の雑草でさえ、その小さな葉で私たちのために酸素をつくり出してくれている。
多様な生命と環境が有機的につながることで生態系は形づくられている。庭でも有機的なつながりを大切にすること、そして有機的なつながりを断ち切るようなものを持ち込まないこと、それがオーガニック・ガーデンの基本的な条件になる。
ここで私たちが言うオーガニックとは、「無農薬・無化学肥料」「有機栽培」という意味だけでなく、「有機的なつながり」という意味も含んでいる。
日ごろから使いやすい庭で地域の生態系を守るとともに、自然の力を活かし、誰もが安心・安全で、いざというときには人々の命をつないでいける─そんな地球環境の視点に立ったオーガニックな庭のデザインを提案したいという思いで、私たちは庭づくりをしている。
地球は長い時間をかけて、多様な生命が棲めるような環境になってきた。青い地球だから生物が育まれたのではなく、生物の活動があったからこそ地球は青いのだ。つまり、みんなが嫌がる雑草や菌や虫たちは、青い地球をつくってくれた一員なのだ。
地球は人間だけの「モノ」ではない。もっと地球の声を聞きながら、地球に負荷がかからない暮らし方をつくっていきたいし、そういう気持ちになれば、地球はたくさんの恵みを私たちに与えてくれるはずだ。
そう考えるとき、庭は自然の奇跡の詰まった一番身近な場所。そんな多様性のある使いやすい庭や公園が、この地球上にたくさん増えれば、人々の心身の癒しとなり、気候の調整や生態系の保全にもなり、災害時の備えとなり、地域の景観も保たれ、それは地球全体の環境をも守ることにつながるのだ。
本書は時として、一見、庭の話から逸れているように見えるところもあるかもしれない。だがそれは、私たちが単に無農薬、無化学肥料のオーガニックを提唱しているのではなく、「生き方としてのオーガニック」を創造していきたいと心から思っているからだ。そこをご理解いただければと思う。