![]() | 辻正矩[著] 1,600円+税 四六判並製 192頁 2021年2月刊行 ISBN978-4-8067-1613-6 「学びの意味」が激変する現在、 学習指導要領に則った画一的な教育から離れ、 学びの深さが変わる異年齢集団学習を取り入れた、 生徒の主体的・対話的な学びができる、 民主的な小さな学校が、続々と出来ている。 世界の先進的な自由学校を取材し、 自らも大阪でオルタナティブスクールの運営に携わる著者が、 生徒数200人以下の小さな学校を実現するための 立法、制度作りから教育構想までを平易に解説する 「スモールスクール提言」。 [推薦のことば] ポスト・コロナ時代の教育はどんな教育になるのだろう? 「元に戻さない」と多くの人は言うけれど、 「どのように?」と問われると、途方に暮れてしまう。 しかし本書には、新たな時代に求められる教育の在り方と方向性が描かれている。 ユネスコ等がリードし、SDGsを実現するための教育でもある ESDの特徴である「変容」「統合」「刷新」のすべてがここにある。 ―――永田佳之(聖心女子大学教授) 8つの読者層 1 子育て中の親 2 小学校・中学校・高校の先生 3 教師になろうと思っている学生 4 自分たちで学校を創ろうと思っている人 5 過疎化や少子化で学校閉鎖に直面している学校の保護者や管理者 6 大学生の教育に携わる教員、教育学研究者 7 文科省、自治体の教育行政に携わる人 8 教育に関する立法に携わる政治家 |
辻 正矩(つじ・まさのり)
建築設計事務所に勤務後、大阪大学、大阪工業大学などで、建築計画と建築設計を教える。
大学生の学習意欲の低さから、小学校からの日本の公教育のあり方に疑問を持ち、
自ら学校を立ち上げ、「箕面こどもの森学園」学園長としてオルタナティブ教育に携わる。
認定NPO法人コクレオの森代表理事。
学校法人きのくに子どもの村学園理事。
多様な教育を推進するためのネットワーク副代表。
刊行に寄せて 吉田敦彦/竹内延彦
まえがき
第1部 小さな学校は素晴らしい Small School is beautiful.
第1章 小さな学校ではみんな生き生きしている
デンマークの小さな学校
子どもは幸福でなければならない/子どもの自己肯定感を高めることが大切
小さな学校の子どもたちは主体的である
自己肯定感が高い/相手を思いやる/異年齢集団で群れて遊ぶ
生き生きと自分を表現する/コミュニケーション能力が高い
トピック1 世界のオルタナティブ教育
小さな学校での学習は効果的である
自分の意思で学ぶ/子ども同士で学び合う/教師は子どもの学びを支援する
小さな学校は自立的で協働的な人を育てる
実践能力が高い/自治能力が高い/自己実現的な生き方を選ぶ
トピック2 フランスとオランダの自由学校
小さな学校もいろいろある
フリースクールとオルタナティブスクール/日本のフリースクールの現状
法的な認知と公費助成が課題
第2章 一人ひとりの学びを大切にする教育
日本にも個別教育の長い歴史がある
近世における庶民教育/明治における近代学校の創設
大正デモクラシーの新教育運動と自由学校の誕生
トピック3 百年続いた日本の自由学校
公立学校での個性化教育の試み/ゆとり教育の推進と学力低下問題
主体的・対話的な深い学びの推進
21世紀に求められる教育
21世紀に必要なコンピテンスとは/子どもの主体的で深い学びを促進する方法
子どもも大人も幸福と感じる学校/弾力的なクラス編成と多様なカリキュラム
テストによらない学習評価の方法
第2部 小さな学校は可能である Small School is possible.
第3章 教育に多様な選択肢を持とう
多様な学校が必要な理由(わけ)
すべての子どもの学ぶ権利を保障する
これから小学校に入ろうとしている子どもの保護者のニーズがある
グローバル化する社会に適応できる人材育成のニーズがある
過疎地域では小規模学校を存続させたいというニーズがある
教育には民主的で自立した市民を育てる使命がある
多様な学校ができない理由(わけ)
制度の壁/ステークホルダーの壁/社会通念の壁
学校のサイズが問題
学校の適正規模/一クラスの適正な人数
民主的な学校運営が大切
第4章 もう一つの学校制度を構想する
海外の多様な学校制度
デンマークのフリースコーレ/アメリカのチャータースクール
アメリカのスモールスクール運動/韓国の教育改革運動と代案学校
トピック4 韓国における小さな学校運動
台湾の教育改革運動と実験教育
トピック5 台湾の実験教育制度
日本の教育はどこへ向かうのか
包括的教育をする学校(インクルーシブスクール)
全人的総合的教育をする学校(ホリスティックスクール)
特色ある教育をする学校(マグネットスクール)
グローバル教育をする学校(グローバルスクール)
学校を変える2つの方略
短期的な方略─学校教育法の下で可能な方法を探る
トピック6 多様な学びを保障する法律づくりの運動
長期的な方略─現在の学校教育とは別の学校体系をつくる
公立でも私立でもない新しいタイプの学び場を構想する
第1類型 民間学習支援センター(ラーニングセンター)
第2類型 小規模実験学校(スモールスクール)
もう一つの学校制度「スモールスクール」の提案
なぜこの法律が必要なのか/スモールスクール制度の仕組み
スモールスクールの特徴/モデルスクール
第5章 構想の実現に向かって
この構想を実現するために必要なこと
構想案の多角的な検討/構想の法制化に向けての運動
法案づくりをする組織/スモールスクール化を推進支援する組織
スモールスクールの教育効果に関する実証的研究
民主的でフラットな学校運営組織/学校同士の連携組織
むすび
あとがき
著者の辻正矩さんの、文字通りライフワークが、ここに一冊の本となって結実しました。「大阪に新しい学校を創る会」の結成、紆余曲折がありながらも「箕面こどもの森学園」を創設、それを持続的に運営しながら「多様な学び保障法を実現する会」の活動へと、辻さんの強い意志は決してブレることがありませんでした。
この本には、その長年の実践の経験に裏打ちされた、だからこそ説得力のある知見が盛り込まれています。経済力のあるバックやスポンサーがなくても、ふつうの市民が手作りで、アットホームで小さな学校を創り上げていく、その理念と現実のエッセンスが詰まっています。オルタナティブ教育やホリスティック教育の研究者の眼で見ても、本書の価値は確かなものです。
研究者としてだけでなく、京都で京田辺シュタイナー学校の運営に取り組みながら、大阪の辻さんの営みと並走してきた者としても、感慨を禁じ得ません。大阪と京都の二つのNPO法人立の学校が、ユネスコスクールやサステイナブルスクールの認定を受ける喜びも共にしました。関西の地で、同じ志をもつ仲間たちと、「これからの子育て・教育を考えるフォーラム」「多様な学び実践研究フォーラム」など力を合わせて開催しました。本書にも反映されているような法制度のあり方についても、議論を重ねました。折に触れて悩みを共有し、励まし合うこのつながりはとても大切なものでした。そこにいつも辻さんが居てくれました。
制度化されたシステムではない、小さな手作りの学び場にとって、こんなつながりこそが、成否を分ける鍵なのかもしれません。苦楽を共にして自前で学校づくりに励む大人たちの、その後ろ姿が子どもをハッピーにする秘訣だとさえ思えます。本書の行間に、生身の人間の出会いと縁、支え合いの息遣いを感じ取ってもらえれば幸いです。
吉田敦彦(大阪府立大学教授・京田辺シュタイナー学校顧問)
子どもが描く夢は様々だ。誰もが幸せな人生を送りたいという純粋な希望を持っている。
学校教育は国家や社会が求める人材の育成に重点が置かれてきたが、科学技術の進歩や人々の価値観の多様化によって社会構造が急速に変化していくこれからの時代は、一人ひとりの子どもが心身の潜在能力を発揮し、人生の意義を感じ、周囲の人との関係のなかでいきいきと活動している状態(ウェルビーイング)を目標としなければならない。
大人が子どもに知識を与え導くことが正しいとする教育の最大の弊害は、子どもが自分について考え選択し決定するチャンスを奪われ、自らの人生を生きている実感すら得られないまま、自立するための知恵や経験が不十分な状態で社会に放り出されるリスクが高まることである。
人生の主人公は誰か。その問いは生まれた瞬間から常に子どもと共にある。学びの主体が誰なのかを子どもと一緒に真剣に考えない学校教育は百害である。
子どもは良く育ちたいという本能を備えて誕生したはずであり、その子どもの力を信じる大切さを本書はわかりやすく教えてくれる。どうか、不登校や学校統廃合の問題に頭を悩ませている教育行政に携わっておられるみなさんの参考にしていただきたい。子どもの安心、自信、自由が保障される「ハッピーで小さな学校」が拓く未来に、私は大きな希望を感じている。
竹内延彦(長野県北安曇郡池田町教育長)
今、学校≠ヘ、大きく揺れています。新型コロナウイルスによる教育活動の混乱もそうですが、それだけでなく今までやってきた教育のやり方が根本から問われているからです。いじめや不登校の問題が提起するように、学校は子どもたちにとって安心して学べる場になっていないのではないか? 今の学校教育は、基礎的な知識や技能の習得を重視しているが、一人ひとりの子どもの個性(よいところ)を伸ばすことをやっているのだろうか? テストの成績でその子の能力を評価するのは、その子の持っている個性を伸ばすことになっているのだろうか? AI(人工知能)やロボット技術が今以上に発達した未来の社会では、創造力や批判的思考力が必要であると言われているが、果たして今の教育のやり方でそれが身につくのだろうか?
日本には、国が定めた学習指導要領に則った画一的な教育が行われている公立学校か私立学校しかありませんが、海外には教育スタイルの違った個性的な学校がいくつもあって、その中から自分に合った学校を選ぶことができます。そして、それらのほとんどが生徒数200人以下の小さな学校≠ナす。どんな学校が合っているかは、子ども一人ひとりによって違うので、複数の選択肢があって、その中から自分に合った学校を選べるのが理想的です。
私は、近い将来小さな学校の時代がやってくる≠ニ思っています。今の学校は、学びから逃避する子ども、荒れる子ども、不登校の子ども、いじめや学級崩壊など、様々な困難な問題を抱えています。学校側はいろいろと対策を講じていますが、もはや限界にきています。それらを解決するには、今までの教育の常識を覆すような新しい取り組みが必要です。その有望な解決策の一つが小さな学校≠つくることです。
この本には、そのことに関する一つの構想が書かれています。子育て中の人、現役の学校の先生、教師になろうと思っている学生さん、自分たちで学校をつくりたいと思っている人には、ぜひ読んでほしいと思います。また、過疎化や少子化が深刻で学校閉鎖を迫られている学校の保護者や管理者の人たち、大学生の教育に携わる教員や教育学研究者、日本の教育行政を担っている文部科学省や地方自治体の教育部局の人たち、そして政治家の人たちにも読んでほしいと思っています。この本から、日本の教育をよくするためのヒントを少しでも得ていただければ幸いです。
余談ですが、筆者がこの本を書こうと思った動機についてお話ししましょう。
私は、30年余りにわたって、3つの大学で建築学を教えてきました。教師生活はそれなりに楽しかったのですが、講義中の学生の私語の多さと学習意欲の低さにうんざりしていました。200人収容の大講義室でマイクで講義するマスプロ授業のせいかもしれないし、私の講義がつまらなかったからかもしれませんが、多くの学生が授業に積極的に参加せず、学ぶ意欲が低いのには何か別の原因があるのではと思いました。そしてたどり着いた結論は、高校以下の教育のやり方に問題があるのではないかということでした。学校では、決められた時間割にもとづいて、長時間、席について先生の話をひたすら聞いているだけの受け身の授業と、時々、先生の話した内容の理解度を確かめるためのテストが行われます。小学校から高校に至るまで、このような授業を受け続けてきた結果、勉強はテストがあるからするものになり、学ぶことに何の喜びも感じられなくなってしまったのだとしたら、学生たちを責めるわけにはいかないなと思いました。
そんなとき、海外の自由学校を実際に見る機会があって、「日本の教育は何と貧しいのだろう。子どもたちが生き生きと学んでいるこんな学校を日本にもつくりたい」と切実に思うようになり、2004年に大阪の箕面市にNPO法人立のオルタナティブスクール「箕面こどもの森学園」を仲間と共につくりました。それから17年たって、ハッピーで民主的な小さな学校の時代がやってくる≠アとを予感しつつ、箕面こどもの森学園での教育の様子や、他の自由学校の様子などを含めて、この本を書きました。