| 染谷孝[著] 1,800円+税 四六判並製 192頁+カラー口絵4頁 2020年9月刊行 ISBN978-4-8067-1607-5 畑に食卓、さらには洞窟、宇宙まで!? 植物を育てたり病気を引き起こしたり、 巨大洞窟を作ったり光のない海底で暮らしていたり。 身近にいるのに意外と知らない土の中の微生物。 その働きや研究史、病原性から利用法まで、この一冊ですべてがわかる。 家庭でできる、ダンボールを使った生ゴミ堆肥の作り方も掲載。 |
染谷 孝(そめや・たかし)
1953 年東京下町に生まれる。
東京教育大学農学部生物化学工学科卒業。
東北大学大学院農学研究科農芸科学専攻修了、農学博士。
1982 年より産業医科大学医療技術短期大学微生物学助手のち講師。
1994 年から佐賀大学農学部助教授のち准教授を経て教授。
2019 年定年退職、名誉教授。
引き続き招聘教授として研究に携わる(堆肥や野草に含まれる拮抗菌の解明と応用)。
専門は土壌微生物学、環境微生物学。
日本洞窟学会会長、廃棄物資源循環学会九州支部長を歴任。
ケイビング(洞窟探検)は趣味と仕事を兼ね、会員50 名を超える市民ケイビングクラブ「カマネコ探検隊」の事務局長。
土壌微生物学や微生物資材に関する論文多数。
森田智有,龍田典子,田代暢哉,上野大介,染谷 孝(2020):揮発性抗菌物質生産菌によるハウスミカン汚損防止の基礎的研究,環境技術,49: (2), 98-106Kiyoshi Sato, Yoshiyuki Taniyama, Ayami Yoshida, Kazuhiko Toyomasu, Noriko Ryuda,Daisuke Ueno & Takashi Someya (2019): P rotozoan predat ion of Escherichia coli i nhydroponic media of leafy vegetables. Soil Science and Plant Nutrition,65: (3), 234-242.染谷 孝(2012):生鮮野菜による食中毒を防ぐ. 食品と容器, 53: (6) 6月, 385-391
はじめに
第1章 未知の世界がいま明らかに──人と微生物との関わり
身近な微生物
微生物の発見
病原菌の発見
土壌微生物学のはじまり
土壌微生物学の新時代
第2章 土と微生物
田んぼでは連作障害が起きない!? ──持続的農業と微生物の関係
99%は未知──土壌微生物
反芻動物と微生物──共生微生物1
根粒菌の働き──土壌微生物2
菌根菌、キノコが山を緑に?──共生微生物3
大気を作った微生物──シアノバクテリア
世界遺産を蝕む微生物
虫眼鏡で見る土の微生物
蛍光顕微鏡で見るミクロの世界
培養できない細菌の謎を解く
肥料を逃す脱窒菌
硝化菌──農地では悪玉菌、水環境では善玉菌
硫酸還元菌──水田の悪玉菌
第3章 善玉菌を活用する──微生物資材
様々な微生物資材──効果は本当にある?
乳酸菌の農業への応用──害虫防除に効く?
植物生育促進微生物──期待される微生物資材1
光合成細菌──期待される微生物資材2
家畜ふんや生ごみからエネルギー
第4章 環境を浄化する微生物
石油を分解する微生物
バイレメは安価
農薬や有機溶剤を分解する微生物
第5章 土の中の病原菌
土からやってきた病原菌──温泉に潜む危険
ボツリヌス菌──新技術が生んだ災厄
食中毒菌はどこから来る?
第6章 堆肥と微生物
堆肥とは?
堆肥の科学
いい堆肥、悪い堆肥とは?
いろいろな堆肥を使い分ける
堆肥の善玉菌──放線菌とバチルス
病害抑制効果
段ボールコンポスト──家庭で作る生ごみ堆肥
みんなで作る生ごみ堆肥
地域の生ごみ堆肥化施設──先駆者はちがめプラン
大学による支援
第7章 洞窟の微生物
洞窟はなぜできた?
観光洞で見る微生物の働き
トウファ──シアノバクテリアが作る鉱物
ムーンミルク──未解明の柔らかい鍾乳石
イオウ酸化細菌──石膏を作り、巨大洞窟を作る!?
第8章 土壌から宇宙へ
温泉の微生物──最初の生物の子孫?
地殻の微生物──解き明かされるか、地底世界
生命の起源と地球外生命体発見の可能性
おわりに
参考文献
索引
私たちの生活は微生物と関わりのあるもので満ちあふれています。納豆、ヨーグルト、キムチなどの発酵食品や、味噌、醤油、コチュジャンなどの発酵調味料、さらにビール、ワイン、清酒などの発酵酒も微生物の働きで作られています。ヨーグルトは乳酸菌、ビールやワインは酵母菌、納豆はもちろん納豆菌によるものです。ぬか漬けやキムチは乳酸菌と酵母菌の共同作業で、清酒に至っては、コウジカビ、酵母菌、乳酸菌という三種類もの微生物を駆使して造られる、世界でも珍しい高度な製法による発酵酒です。
一方、土の中の微生物も、植物の発育を支えたり土作りに貢献したり有害物質を分解浄化したりして、人の生活や農業に深い関わりを持っています。もちろん、植物病原菌という悪玉菌もいますが、それをやっつける善玉菌もちゃんと土の中に棲みついています。
このような土の中の微生物の働きは、すでに1930年代頃には概要が明らかになっていましたが、じつはそれは全体のごく一部に過ぎないということが、1980年代以降、急速に解明されてきました。これは遺伝子を調べる技術と蛍光染色という二つの科学的手法の発達のおかげです。
その結果、じつは土の中で活動する微生物のごく一部しか認識できていなかったということがわかってきたのです。いわば私たちは、土の微生物の1%しか知らなかったのです。そして今、日本はもとより世界中の土壌微生物の研究者たちが、残りの99%を解明しようと最新の分析技術を駆使してしのぎを削っています。その結果見えてきた土の微生物の世界は、とても巧妙で魅力的なものです。植物の発育を支える土、その土を豊かにする微生物、植物や動物を人知れず助ける微生物、有害物質を分解浄化する微生物、洞窟の中で不思議な鉱物を作る微生物、そのあれこれを本書でご紹介します。
さて一方で、微生物の様々な能力に対する人々の期待につけ込んだような、あやしげな微生物技術や商品も横行しています(第3章)。福島第一原子力発電所事故の数ヶ月後、福島県内では「土壌に散布混合すると放射性元素を分解して放射線量が下がる」という微生物製剤が出回りました。そんなことは科学的にあり得ないのですが、人の心の弱みにつけ込むような「スーパー微生物」の売り込みはよくあります。本物と偽物の見分け方も同章で扱います。
本書は体系的に構成していますが、内容的には各項目でほぼ独立していますので、どこから読んでいただいてもかまいません。
なお本書は、筆者が大学で教えていた「土壌学」「土壌微生物学」や市民対象の講演会の内容に基づいて、新聞や雑誌に書いた解説記事も加味してまとめ直したものです。中身は大学レベルですが、読みやすくなるよう心がけました。元ネタは90分×30回分の量があります。盛り込めなかった分もありますが、それはまた別の機会に。
ほんの30年前まで、わずか1%しか存在を認識されていなかった土壌微生物。
研究手段の発達により明らかになったその働きは、動植物の生育を手助けしたり洞窟を作ったりするだけでなく、
エネルギー生産、環境浄化といったさまざまな場面で暮らしに役立つものでした。
一方で、病気をもたらす土壌由来の微生物もいます。
肺炎を引き起こすレジオネラ菌や食中毒を発生させるボツリヌス菌、大腸菌O157が有名ですが、
研究が進むにつれてそれらは防げるものだとわかってきました。
本書では微生物の生態や特徴からその研究の歴史までも解説します。
本書は、著者が佐賀大学で行った土壌学・土壌微生物学の講義などを元にまとめられました。
中高生から読める敷居の低さと、それに反した内容の濃さが魅力で、
「洞窟のコウモリと微生物は関係が深くて…」「石油の海洋汚染を浄化するには…」と
人に話したくなるお話がたくさん詰まっています。
肉眼では見ることのできない生物の正しい知識を身につけることで、
その働きや影響に冷静に向き合い、見える世界を広げられる一冊です。