| 吉田太郎[著] 1,600円+税 四六判並製 160頁 2018年12月刊行 ISBN978-4-8067-1574-0 世界中で激増する肥満、アトピー、花粉症、アレルギー、学習障害、うつ病などが、 腸内細菌の乱れにあることがわかってきている。 けれども、日々私たちと子どもたちが口にする食べ物が、 善玉菌を殺し「腸活」の最大の障壁となっていることは意外に知られていない。 遺伝子組み換え大国アメリカはもちろん、 ヨーロッパ、ラテンアメリカ、ロシア、中国、韓国まで、世界中の母親や農家が、 農薬漬けの農業を見直して種子を守り、 農作物や加工食品の質を問い直す農政大転換が始まっている。 なぜ、日本だけ主要農産物種子法が廃止され、 発がん物質として世界が忌避する農薬の食品への残留基準が規制緩和されていくのか。 緩和の事実がなぜ日本の大手メディアでは報道されないのか。 世界の潮流に逆行する奇妙な日本の農政や食品安全政策に対して、 タネと内臓の深いつながりへの気づきから、警鐘を鳴らす。 一人ひとりが日々実践できる問題解決への道筋を示す本。 [推薦の言葉] 有機農業実践47年。 これまでの実践が、間違いないという確かな手ごたえを感じつつこの本を読んだ。 食に不安を持つすべての国民に読んでほしい内容である。 ――金子美登(有機農家 埼玉県小川町 霜里農場) 世界全体が、そしてヒトの身体とココロと生命とが、 なみうって、ゆれる現代。人類の生存条件が賭けられた、 遺伝子環境と水文(すいもん)環境激変のなか、待望の著書が誕生した! 地球人の「農・食・住」に関する、希望のものがたりが今日はじまる。 ――色平哲郎(佐久総合病院医師) 大病を食生活で克服した著者が、タネと内臓の知られざる謎に迫る。 メディアが報道しない、タネを巡る攻防は刺激的だ。 身体で考えた情報は、それが対岸の火事ではないことを実感させてくれる。 ――島村菜津(ノンフィクション作家・『スローフードな人生!』著者) [ビデオメッセージ] 色平哲郎氏(佐久総合病院医師)のNAGANO食と農の会の集会へのビデオメッセージです。 「ママ、これ食べても大丈夫?II」 ●日本農業新聞3/11(月)コラムで紹介されました。 筆者は島村菜津氏です。 |
吉田太郎(よしだ・たろう)
1961年東京生まれ。筑波大学自然学類卒。同大学院地球科学研究科中退。
話題になった『200万都市が有機野菜で自給できるわけ』『世界がキューバ医療を手本にするわけ』などの
キューバ・リポート・シリーズの他、『文明は農業で動くーー歴史を変える古代農業の謎』(以上築地書館)や
『地球を救う新世紀農業――アグロエコロジー計画』(筑摩書房)などアグロエコロジーの著作を執筆してきた。
NAGANO農と食の会会員。小さな有機家庭菜園で自家採種を行う他、
大病を契機に鎌倉での坐禅会や松本での坐禅断食会にも参加し、タネと内臓のつながりを自らも探求している。
まえがき
第1章 タネはいのち――アニメの巨匠が描いた世界
日本の野菜の種子の自給率はわずか一割
自然農法を描いた先駆的アニメ『地球少女アルジュナ』
宮崎駿の処女作『シュナの旅』は種子がテーマ
第2章 タネから垣間見える、もうひとつの世界の潮流
種子法廃止はアグロエコロジーや腸内細菌とも関係する?
既得権益の打破か日本の主権の身売りか、種子法廃止をめぐる両極端の見解
世界の潮流と逆行する日本の農政
大きな物語の復活――緑の枢軸、露仏独の三国同盟VS死の化学企業の連合軍
食から始まる幸せの贈与経済
第3章 米国発の反遺伝子組み換え食品革命――消費を通じて世の中を変える
ミネラルやビタミンが豊富に含まれていた狩猟採集民たちの食事
遺伝子組み換えトウモロコシはミネラルをろくに含まないカス食品
ミネラルを固定し土壌微生物を殺す除草剤グリホサート
植物が病み害虫がたかるようにするグリホサート
抗生物質として腸内細菌を殺し自閉症の一因に
遺伝子組み換えトウモロコシからの物体X
遺伝子組み換えの安全性を確証する査読論文はない
まともなモノを食べたい母親が社会を変える
第4章 フランス発のアグロエコロジー――小さな百姓と町の八百屋が最強のビジネスに
反遺伝子組み換え食品・アグロエコロジー先進国フランス
静かに広まる「再百姓化」――企業型農業よりも家族農業の方が力強い経営体
就任早々の苦い体験からアグロエコロジーを打ち出した仏農相
農家の創造力を重視し生命の相互作用を活かす
教育がすべての柱――将来世代のために夢あるビジョンを示す
悲惨な現実を直視したうえで明るい未来予想図を描く映画が大ヒット
地場農産物を地元の八百屋で買えば町は蘇る
第5章 ロシアの遺伝子組み換え食品フリーゾーン宣言――武器や石油より有機農産物で稼げ
遺伝子組み換え食品汚染から国民を守れ――規制法によって0.01%までGMOを削減
遺伝子組み換え食品を売る者はテロリスト――気分はもう反GMO
遺伝子組み換え食品を巡る米露の情報戦――GMOの危険性を発信するロシア・メディア
2020年の挑戦――有機農業での自給と有機農産物輸出を国家戦略に
変貌するロシア農業――穀物輸出で米国を凌ぐ
西側からの経済封鎖を契機に自給率が向上
脱石油時代の自給自立国家戦略――食の独立は種子から始まる
第6章 ブラジル発の食料・栄養保障――ミネラル重視の食で健康を守る
砂漠化する先進国の食事
健康を維持するにはミネラルを含んだ食べ物が不可欠
世界で最も進んだ食のガイドライン――料理は家族や友人が楽しむ時間
アグロエコロジー給食で子どもたちの健康を守る
第7章 究極のデトックス――腸内細菌が健全化すれば心身ともに健やかに
腸の健康に左右される気分や心のありよう
脳の健全な成長から記憶力まで左右する腸内細菌
神経伝達物質を介して腸内細菌は人を幸せにできる
腸内細菌を健全化するには食生活が大切
第8章 タネと内臓――人類史の99%は狩猟採集民だった
「いま」を生きれば人は幸せでいられる――アイドリングからハイブリッドへ
狩猟採集民のマインドで生きれば人は幸せでいられる
腸内細菌で養分吸収率があがれば自給率は70%、誰もが健康になれる
幸せな時間を求める第二の枢軸の時代の到来
アグロエコロジーと家族農業が在来種の多様性を守る
食を正し体内生態系――腸内細菌の多様性を守る
あとがき――この星で生きる奇跡
引用文献
著者紹介
「タネと内臓」。奇を衒ったタイトルのように思われるかもしれない。けれども、これは言葉遊びではない。本書は、農作物の源であるタネと、人間や動物の脳の働きを司り、生命の源である内臓についての本だ。タネをキーワードに食や農と健康とのつながりを探ってみた本だ。そうしたくなったのにはわけがある。
「すい臓に何らかの障害があります。明日から緊急入院してください」
病院で糖尿病の専門医師からいきなり言われたのは3年前の2015年11月末のことだった。血液中の糖分は健常者では1%程度に保たれている。空腹時血糖値が130ミリグラム/デシリットル、つまり、1.3%以上あると糖尿病とされるのだが、それが400ミリグラム/デシリットルもあった。
糖尿病は不摂生や暴飲暴食でかかるとされる生活習慣病なのだが、まったく心当たりがない。何の前ぶれもなく、いきなりすい臓機能が悪化する可能性は、すい臓がんかT型糖尿病しかない。後者は全体の1割以下でしかなく、おまけに大半が幼少期に発症する。それも、10万人に2人程度だ。
思わず死を覚悟した。ただ、入院後の精密検査の結果、腫瘍はなく診断結果はT型糖尿病だった。だから、3年後のいまもこうしてこの本を書けている。
とはいえ、「なんで50歳代でいきなり?」。腑に落ちないまま早朝に1本、毎食毎に3本。計4本、外国の製薬会社が遺伝子組み換え技術を用いて製造したインスリンを打つ生活が始まった。インスリンは血中の糖分を脂肪に転換するホルモンだ。血糖値は下がったもののたちまち腹が出てきた。さらに、1年も経つと薬が効きすぎて低血糖症状に襲われたり、いくら薬を打っても数値が正常化しないなど、体調管理もままならなくなってきた。毎月の病院通いごとに支払う出費もばかにならない。
そんな闘病生活を変えたのが本書で登場する「NAGANO農と食の会」の2017年の5月の例会で話題になった一冊の本だった。築地書館の『土と内臓』―農作物と土壌、食べ物と腸との関係が瓜二つであることを描いた快著だ。有機農業や第4章で詳述するアグロエコロジーの大切さは頭ではわかってはいたものの、まさに知識は脳内にとどまって、食生活、つまり、内臓とは一致していなかった。せっかく、「NAGANO農と食の会」に所属しているのである。知行合一、「理論と行動を合致させなければ」と、メンバーの有機野菜を多少は高くても買い、外食や加工食品を極力控え、ラーメンやうどんも止め、マメや野菜中心の食生活へと変えてみた。朝食は有機野菜のスムージーやギー(インドで有名なバターオイル)を入れたコーヒーだけを飲むようにしてみた。するとどうであろう。まさに『土と内臓』に書かれていたのと同じく、便の質、すなわち、腸内細菌叢の構成がまず変わり、それとともに、インスリン注射によって増えていた体重が一気に10キログラムも落ち、ズボンのベルトがブカブカになった。そして、インスリン注射をしなくても血糖値が正常化していった。
けれども、「なぜいきなり?」と、腑に落ちずにいた発病理由も本文で登場する「日本の種子(たね)を守る会」の事務局アドバイザーを務める印鑰智哉氏の講演を2017年9月に聴くことで自分なりには合点がいった。遺伝子組み換え農産物に伴うグリホサートを摂取することで腸内細菌のバランスが崩れ、リーキーガット症候群(腸漏れ症候群)を併発することで自己免疫疾患が起こり、米国では糖尿病をはじめとする難病が急増しているというのだ。一方、人間の自然治癒力も無視できない。有機農産物を食べ、腸内細菌のバランスを整えれば、健康は回復する。いま米国では有機農業の一大ブームが起きている。
「とあるスーパーで有機農産物のコーナーがないなと思って探したら、店全部が有機になっていたのです。若者たちの間で一番クールなことは有機農業をやることです」
2018年8月下旬に訪米された印鑰智哉氏はそう現地の生情報を語る。
翌9月上旬に西海岸を訪問された山田正彦元農相は、スーパーで山のように積み上げられた非遺伝子組み換え食品や有機農産物を前に「普通の食品はどこにあるのですか」と思わずつぶやいてしまう。この問いかけに、第3章で登場するゼン・ハニーカット氏はこう語ったという。
「有機農産物は価格的には割高ですが以前は年間に120万円もかかっていた家庭の医療費が10万円になったんです」
ハンバーガーとフライドチキンというイメージしかなかった米国の食事情は急変しつつある。
いま、「タネ」が大企業に支配され、金儲けの道具にされようとしている。タネが失われれば農業は画一化する。農業生態系が画一化すれば害虫が発生し農薬が必要となってくる。農薬が散布されれば土壌細菌が死滅し、死んだ土からできた作物は栄養がない。カロリーだけのカスのような食べ物を口にしていれば腸内細菌も画一化して死滅する。そして、腸内細菌が死滅したときに内臓は……。そう。タネと内臓は直結するのだ。
山田正彦氏の『タネはどうなる!?―種子法廃止と種苗法適用で』(2018年サイゾー)や堤未果氏の『日本が売られる』(2018年幻冬舎新書)をはじめ、種子法廃止をめぐる良書は何冊も出ている。腸内細菌はブームもあって翻訳書を含めて読み切れないほどの本がでている。小規模家族農業の重要性を指摘した専門書も愛知学院大学の関根佳恵准教授が書かれている。アグロエコロジーの名を冠した本も何冊かあり、うち一冊は恥ずかしながら筆者が書いている。けれども、タネとアグロエコロジーと小規模家族農業と腸内細菌までを横串で貫いてつないだ本は、筆者が知る限りまだない。そして、一見バラバラのように見える上述したトピックは「多様性(ダイバーシティ)」というキーワードによって根っこのところでつながっている。
第3章で詳述するようにグリホサートは土壌細菌も腸内細菌も殺す。結果として無数の自己免疫疾患患者を産む。
「ですから、僕は少しでも被曝者を減らしたいんです」
そう語る印鑰智哉氏の発言を講演会場で聞いていた筆者は思わずうなずいていた。もちろん、筆者のT型糖尿病がグリホサートが原因だとは断定ができない。主治医も「原因は不明だし、あなたはたまたま糖質制限食が体質的にあっていたのだろう」と普遍化を避ける。おまけに、今は血糖値が安定しているとはいえ、いつ悪化するかわからない。ラーメンやアイスクリーム等、以前は好物だった糖分を多く含む食べ物は今も一切口にできない。浅学非才を顧みず、この小冊子がタネと内臓とを結ぶことにあえて挑戦してみたのも、まさに筆者に当事者意識があるからだ。
では、その物語をはじめてみよう。まずは、タネからだ。初めに予告しておくが、第1章から6章までは憂鬱な話が続く。海外とこの国の現状とのあまりのズレに気分が滅入ってくるはずだが、事実を知らなければ何事も始まらない。けれども、ご安心いただきたい。あとがきには筆者なりのささやかな「処方箋」を書いた。そして、国連と地方自治体という二つのレベルで着実に状況は良い方向に向かっている。
いま、本書を手に取られ、ここまでお読みになられたのも何かの「ご縁」である。ぜひ、最後まで筆者の学びの追体験におつきあいいただきたい。「タネと内臓」とが表裏一体であることが「五臓六腑にしみわたり」腹に落ちてわかったとき、まさにあなたの身のまわりからこの国の悲しい現状も変わってゆくにちがいない。