![]() ![]() 著者近影 | ロビン・ウォール・キマラー[著]三木直子[訳] 3,200円+税 四六判上製 496頁 2018年7月刊行 ISBN978-4-8067-1564-1 ニューヨーク州の山岳地帯。 美しい森の中で暮らす植物学者であり、北アメリカ先住民である著者が、 自然と人間の関係のありかたを、ユニークな視点と深い洞察でつづる。 ジョン・バロウズ賞受賞後、待望の第2作。 [推薦の言葉] ロビン・ウォール・キマラーの書くものには類まれな優美さがある。自然界について書く彼女の言葉は情熱に溢れ、一度彼女の目を通してこの世界を眺めた者は、決してそれまでと同じように世界を見ることができなくなってしまう。本書は私たちを、科学的・歴史的であると同時にまた同じくらい神話的で神聖であり、深い叡智に満ちると同時に機知に富んだ旅路へと誘う。彼女は優れた教師であり、その言葉は、世界を愛する賛歌である。 ――エリザベス・ギルバート(『食べて、祈って、恋をして』『The Signature of All Things』著者) ロビン・ウォール・キマラーはこの非凡な本の中で、事実主義的・客観的な科学の考え方が、先住民に古くから伝わる知識によっていかに豊かなものとなり得るかを示してみせる。 私が何よりも好きなのは、彼女の美の描き方だ――巨大なシーダー、野生のイチゴ、雨に濡れる森やかぐわしいスイートグラスの草原の心象は、この本の最後のページを読み終わっても長くあなたの心にとどまることだろう。 ――ジェーン・グドール(霊長類学者、『Seeds of Hope』『森の隣人 チンパンジーと私』著者) 本書は「教育的な詩」である。ロビン・ウォール・キマラーは、シアトル酋長が「生命という織物」と呼んだ精神的な関係性を文字に記した。 産業社会には、すべての生命あるものをつなぐ相互関係についての理解が欠落している。そしてこの本はその空隙を埋めるものだ。すべての人に、この本の教示を読むことを勧めたい。 ――オレン・ライオンズ(オノンダガ国のウィズダム・キーパー) とても美しい本。自然史、植物学、環境保護、ネイティブアメリカンの文化に興味のある人なら誰でも気にいるに違いない。 ――ライブラリー・ジャーナル |
ロビン・ウォール・キマラー(Robin Wall Kimmerer)
1953 年、ニューヨーク生まれ。ネイティブアメリカン、ポタワトミ族の出身。
1993 年より、ニューヨーク州立大学の環境森林科学部で准教授として教鞭を執る。
生物学や生態学、植物学などを教えるかたわら、学部内に2006 年に設立された「ネイティブアメリカンと環境センター」のディレクターに就任。
環境保護活動家、作家、母親、科学的知識と北米先住民としての伝統的な知識の間を行き来しながら、積極的に活動をしている。
処女作である『GATHERING MOSS』(『コケの自然誌』築地書館)にて、ジョン・バロウズ賞を受賞。
三木直子(みき・なおこ)
東京生まれ。国際基督教大学教養学部語学科卒業。
外資系広告代理店のテレビコマーシャル・プロデューサーを経て、1997 年に独立。
海外のアーティストと日本の企業を結ぶコーディネーターとして活躍するかたわら、テレビ番組の企画、
クリエイターのためのワークショップやスピリチュアル・ワークショップなどを手がける。
訳書に『不安神経症・パニック障害が昨日より少し良くなる本』『がんについて知っておきたいもう一つの選択』(ともに晶文社)、
『コケの自然誌』『錆と人間』(ともに築地書館)、他多数。
はじめに
スイートグラスを植える
落ちてきたスカイウーマン
故郷に抱かれる者と追われる者
土地に根付くということ
ピーカンの忠告
クルミの豊凶現象の謎
ピーカンで命と精神をつないだ先祖たち
会話をする木々たち
イチゴの贈り物
贈り物と義務
贈り物か、商品か
捧げものをする
その土地を故郷にする
アスターとセイタカアワダチソウ
植物学者の誕生
科学と伝承の邂逅
生命あるものすべてのための文法
「プリーズ」を表す言葉がない理由
生命あるものと「文法」
スイートグラスを育てる
メープルシュガーの月
大量の樹液と少量のメープルシロップ
贈り物へのお返し
ウィッチヘーゼルと隣人
地に足のついた暮らし
癒せない痛み
池と母親業
池の富栄養化と闘う
植物学者としての母の悩み
良い母親の条件
グランマザーは生き続ける
子離れと睡蓮
睡蓮の葉の呼吸の仕組み
すべてのものに先立つ言葉
私たちの心はひとつ
自然界に忠誠を誓う
世界への感謝
スイートグラスの収穫
愛すること
自然界からの愛
三人姉妹
協調し合う植物
関係性に育まれる贈り物
ブラックアッシュの籠
木に尋ねる
木の生命を使い切る
ブラックアッシュと人の共生
籠の三つの列
手の中の時間
スイートグラスについての考察
1 はじめに
2 文献レビュー
3 仮説
4 方法
5 結果
6 考察
7 結論
8 謝辞
9 参考文献
メープルの国の市民権を得るには
メープル国の通貨
メープルシロップを味わう
良識ある収穫
ナナブジョの教訓
収穫のガイドライン
地球が与えてくれるものとそうでないもの
一発の弾
トルコの祖母の教え
テンを捕って、テンを護(まも)る
市場経済と「良識ある収穫」
「良識ある収穫」を取り戻す
スイートグラスを編む
「最初の人」ナナブジョを追って
歩きながら学ぶナナブジョ
足跡はもう辿れない
帰化したセイヨウオオバコ
シルバーベルの音
空回りの授業
真の教師
大地に抱かれて
ガマの収穫
ガマを使い尽くす
カナダトウヒの根で籠を編む
ガマと相互依存関係を築く
ウィグワムの中で眠る
岬を燃やす
姿を消したサケ
失われた物語
儀式の復活
スイートグラスを取り戻す
故郷と植物
スイートグラスが育つ条件
断たれてしまったもの
世界を編みなおす
地衣類の助け合い
生命のあり方の融合
原生林の子どもたち
原生林を作る
復元のその先
ベイスギを育てる
古代の森が蘇るとき
雨の目撃者
水滴の時間
スイートグラスを燃やす
ウィンディゴの足跡
自己破壊という悪霊
聖なるものと「スーパーファンド」
最も汚染された湖、オノンダガ湖
湖の歴史
オノンダガ族土地権利訴訟
助けを呼ぶ声
廃墟と化す自然
環境修復の定義
傷を治す植物たち
愛に根ざした関係
互恵的復元
トウモロコシの人々、光の人々
科学と新しい物語
コラテラル・ダメージ
サンショウウオの救出
両生類とコラテラル・ダメージ
同志たち
将来的な種の保存
種の孤独
7番目の火の人々
火についての教え
新しい人たち
私たちで火を熾す
8番目の火
ウィンディゴに打ち勝つ
エピローグ
訳者あとがき
本書は、自然誌、植物学、環境破壊、ネイティブ・アメリカンの文化と社会、北アメリカの自然と人間社会が、過去数千年にわたってどのように関わってきたのかについての環境哲学の本です。人間と自然の関係性をレシプロシティ(相互性、互恵性)を軸に論じた本だとも言えます。日本列島の自然と過去数千年、この列島に、私達がどのように関わって暮らしてきたのか、思いを巡らせて読むのもよいと思います。
エリザベス・ギルバートが「自然界について書く彼女の言葉は情熱に溢れ、一度彼女の目を通してこの世界を眺めた者は、決してそれまでと同じように世界を見ることができなくなってしまう」と評しているように、著者の優美さと情熱の言葉遣いは、もし石牟礼道子が植物学者だったら、こうした本を書いたかもしれない、と思わせます。
環境哲学の本と書きましたが、決して難しい本ではありません。しかし、難しいことがいろいろと理解できる本です。
短い1章1章が独立したエッセイになっているので、どこからでも、読書の興味に従って、読み進めることができます。