植物園で樹に登る

植物園で樹に登る育成管理人の生きもの日誌

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二階堂太郎［著］
1,600円＋税　四六判並製　200頁＋カラー口絵8頁　2017年11月刊行　ISBN978-4-8067-1547-4

国立科学博物館筑波実験植物園の植物管理を務める、
植木職人であり樹木医、森林インストラクターの著者が、
地上20メートルから見た景色、梢で感じる三次元の風――
造園会社と植物園で20年間、樹木と対話する中で見つけた、
植物の不思議でおもしろい世界。

著者紹介

はじめに

　トムソーヤーの冒険と未来少年コナン。ツリーハウスという言葉が今のように浸透していなかった時代のアニメで、樹上に子どもたちが家を作るストーリーがあり、私はそこに強く惹かれた幼少期を送りました。そして小学2年生の頃、公園で果実をつけている梨の樹に気づき、登って、もぎ取り、食べました。今にして思えば高さ2～3メートル程度であったと思うのですが、当時の私にとっては大冒険で、樹登りにより何かを成し遂げたことがすごくうれしかったのをよく覚えています。そんな経験が影響してか、地元新潟の高校卒業後は山形大学で修士まで林学を学びました。

　卒業後は地元へ戻り、何のツテもなかったのですが、後藤造園（現：らう造景）になんとか入社させてもらいました。造園会社を目指したのは樹木医を目標にしていたのと、その前年、任期付き職員で採用された新潟県林業事務所にて、林業を生業とする人たちから大きな影響を受けたためです。林業は60歳でまだ若造、80歳でようやく一人前という世界であり、その姿を日々見ているうちに私も、「何かを求め続けながら歳をとっていく職人としての人生を送りたい」と思うようになっていました。

　また、優れた職人はどこへ行っても体一つで仕事ができます。私を本当にそう鍛えてくれるところはどこかと考えて、地域に根差した老舗造園会社に飛び込んだのでした。そして全力疾走のような6年が過ぎ、気がつけば憧れていた職人のはしくれとなっていました。その後、長男が生まれたのをきっかけに妻の勤務地であるつくば市へ引っ越し、育児をとことんやってみたくなり専業主夫に。無邪気な息子と日向ぼっこをする穏やかな毎日も2年が過ぎた頃、なんだか仕事に戻れなくなりそうな気がして、筑波実験植物園へ問い合わせをしました。

　筑波実験植物園は国立科学博物館の研究施設の一つで、植物の分類と保全に関する研究を行い、また啓蒙普及のために一般公開をしている施設です。14万平方メートルの屋外エリアと3つの大温室を持ち、約7000種を栽培、約3000種を展示しています。大きな特徴として、約40年の歴史を持つ人工の森があり、私は以前に樹木医の研修で訪れた際、そこが大変気に入っていました。

　なんとも運のいいことに、私は植物データベースを扱う部署で採用され、開花調査や園案内などの教育普及も携わる仕事が始まりました。そして次第に造園技術も重宝されるようになり、屋外展示エリアの育成管理をする屋外班のリーダーへ配置換えされました。

　ちょうどその頃、一般社団法人日本森林学会の定期刊行物『森林科学』でのコラム「森の休憩室Ⅱ　樹とともに」の執筆がスタートしました。森林科学は森林に関する最新の研究や気になる話題を取り扱う科学雑誌で、研究者が論じる記事の合間にほっと一息つくような感じで読めるものを何か書いてみないかと持ちかけられたことがきっかけです。内容は、私の経歴である造園会社での仕事や、現在勤務する植物園での実務を通じて見える樹木や自然の事柄を中心に置き、この10年で28回掲載させていただきました。そしてこのたび、コラムの書籍化という嬉しいご提案をいただき、これまでのものに新しく12トピックを書きおろして出版することになったのです。

　本書の構成は、春夏秋冬の四季をたどり、さらには過去から将来を見据えるさまざまなテーマを集めています。植物たちの季節の移ろいと、彼らと共に歩む未来を感じていただければ幸いです。本文中の写真には、いつどこで見られた植物の姿なのか、景色なのか、また、行われた作業なのかがわかるよう、撮影された植物園植栽区画名（もしくは地域名）と日付を併記しました。

　植物管理の中で、弱っていく植物の原因を見つけられないままに対処を迫られることが多々あります。樹木を詳しく学べばどうにか解決できるというものではなく、頼りになるのは教科書的な知識よりもそれまでに培った経験です。職人と言われる人々は、自身の中にそのような経験をさらに積み重ねるために、日々同じような作業であっても飽くことなく繰り返すのだと思います。私もそうあるべく、造園会社に飛び込んでから筑波実験植物園で働く今日までの約20年、草木が生い茂る場所で植物管理を繰り返しています。各コラムではなるべくその現場目線で見えたものを書くようにしてきました。この本を手に取ってくださった皆さんに、それらを通じて造園業や植物管理という仕事が実際どのようなものか、また、植物の不思議さや面白さを伝えることができたなら、これに優る喜びはありません。