| クレア・ベサント[著]三木直子[訳] 2,000円+税 四六判上製 256頁 2014年9月刊行 ISBN978-4-8067-1482-8 人や犬と違い、群れない動物である猫は、多様なコミュニケーション手段をもっている。 猫は人に飼われても野性を失わない生きものだ。 なでられたいのは匂いをつけるため。開いた瞳孔は気分が高まっているから。 感情によってひげが動き、幼猫時の体験が性格を決める……。 猫の心理と行動の背後にある原理をていねいに解説。 |
クレア・ベサント(Claire Bessant)
イギリス、リーズ大学で動物生理学を専攻。
猫に関して広範な情報を提供し、獣医が猫治療の専門知識を高めるための経済的支援を行う慈善団体、インターナショナル・キャットケアの最高責任者として、世界中の飼い猫や野良猫のための活動を行っている。
獣医学の専門誌の編集に携わり、また多数の猫雑誌に寄稿する他、『The Nine Life Cat』『Cat: The Complete Guide』『The Complete Book of the Cat』『How to Talk to Your Cat』『The Perfect Kitten』など、著作も数多い。
三木直子(みき・なおこ)
東京生まれ。国際基督教大学教養学部語学科卒業。
外資系広告代理店のテレビコマーシャル・プロデューサーを経て、1997年に独立。
海外のアーティストと日本の企業を結ぶコーディネーターとして活躍するかたわら、テレビ番組の企画、クリエイターのためのワークショップやスピリチュアル・ワークショップなどを手掛ける。
訳書に『[魂からの癒し]チャクラ・ヒーリング』(徳間書店)、『マリファナはなぜ非合法なのか?』『コケの自然誌』『ミクロの森』『斧・熊・ロッキー山脈』『犬と人の生物学』(以上、築地書館)、『アンダーグラウンド』(春秋社)、『ココナッツオイル健康法』(WAVE出版)、他多数。
プロローグ
1 違う世界
世界に触れる
猫の目を通して世界を見る
触って「認識」する
聴覚
嗅覚と味覚
第六感?
◎猫の世界に入るコツ
2 猫の言語
匂いでおしゃべり
体でおしゃべり
猫のおしゃべり
◎猫と会話するコツ
3 猫と暮らす
出会い、挨拶、会話
睡眠と昼寝
触れあう喜び
狩猟行動
食事
きれい好き
◎猫と仲良くなるコツ
4 猫との関係
猫の適応性
人間は猫に何を求めるのか?
猫は私たちをどんなふうに見ているのか?
◎猫とくつろぐコツ
5 猫の性格
遺伝
性格
幼猫体験
トラウマとホルモン
猫種の特徴
家猫と外猫
あなたに合った猫を選ぶ
◎猫の性格を伸ばすコツ
6 知能と訓練
「知能」を測る
可能性を引き出す
しつけの手法
褒美
罰は必要か?
「不可抗力」
しつけているのはどっち?
取ってこい!
◎猫を訓練するコツ
7 問題解決法
赤ん坊と猫
餌を与える
外来者恐怖症――知らない人を怖がる
家具をひっかく
グルーミングの問題
好奇心
攻撃性
子どもっぽい行動
子猫――子猫はいつ大人になるのか?
じゃれる
新入り
神経症と恐怖症
食べる――奇妙な食習慣
注目の要求
トイレの問題
動物由来感染症
尿スプレー
猫砂
野良猫を飼いならす
発情期の鳴き声
引越し
病後
ベジタリアン猫はいるか?
夜鳴き
旅行
老猫の世話
訳者あとがき
索引
近年になって、私たちは動物のことをずいぶんよく理解するようになった。
野生の動物のドキュメンタリー映像が、自然の中の動物たちのふるまいを−−彼らの行動にはどういう理由があるのかを−−
教えてくれたのだ。そして、おもしろいことに、野生の動物たちの行動を見ることで、
私たちはペットである動物たちの行動についても見なおすことになったのである。
それは長い間、あまり注意が払われずにいた。
野生の動物は興味深いけれど、家で飼う動物は単に言うことをきくだけの存在と思われてきたのだ。
でも今では、野生の動物と飼われている動物の両方を観察することによって、そのどちらをもよりよく理解できるということがわかったわけである。
私たちのペットは何千年も前から人間とともに暮らしてきたにもかかわらず、私たちはほんの30年前まで(場合によっては今もまだ)、
非常に懲罰的な方法を使って犬を訓練していた。初めてテレビで放送された犬の訓練番組
[訳注:1980年にイギリスで放送され、その後他の国でも放送された『Training Dogsthe Woodhouse Way』という人気番組のこと。
バーバラ・ウッドハウスという調教師が犬の訓練方法を10回シリーズで紹介した]を覚えているだろうか?
アメリカは国を挙げてそれに夢中になり、誰もがチョーク・チェーン[訳注:引くと首が絞まる鎖の首輪]
を買いに行き、手で正しい合図をしながら甲高い声で飼い犬に「おすわり」と命令したものだった。
それはまだ、かなり威圧的な訓練方法で、罰を与えることが重要な位置を占めていた。
新しい世代の「動物行動学者」たちが「調教師」に代わってペットの問題行動に注目し、神経質だったり、攻撃的だったり、
うるさく吠えたり、リードで引かれるのに抵抗したりする犬の飼い主に救いの手を差し伸べるようになると、状況は変化した。
私たちは犬を、遺伝子学的にオオカミに近い動物として見るようになり、記録映像で見たオオカミの行動とペットの犬の行動を比較するようになった。
そうすることで動物行動学者たちは、犬の「問題行動」の裏にある動機を、そして時にはその解決法を、説明することができるようになったのだ。
しばらく前の「ホース・ウィスパラー[訳注:ウマと話をする人、の意]」ブームで私たちは、
この大きくてパワフルな動物と人間が協働するには、昔から行われてきたような、
人間の意志を強制的にウマに押しつける調教の仕方よりもよい方法があることを知った。
モンティ・ロバーツという名の一人の男性が、野生の環境でウマがどんなふうに行動し、
ウマ同士がどんなふうに交流するのかを研究し、ウマを手なずけるのに、それまでとは違った、
非常に有効な方法があることを示してみせたのだ。実際、ウマは、人間といることを自ら選択する場合があるのである。
ロバーツは、ウマのボディーランゲージと、ウマ同士がどうやって互いに心を通わせるのか、
そのことに関する知識を、ウマと人間の関係に応用し、驚異的な成果を上げた。
調教馬場で何にもつながれていないウマをギャロップさせ、調教師が正しいボディーランゲージを使い、
またウマのボディーランゲージを読み取ることによって、はじめのうちは人間のどんな接触からも逃げようとしていたウマが、
ほんの数分のうちに調教師の肩に頭を乗せるようにしてあとをついて歩くようになる。
この「ジョインアップ」というロバーツの手法を見たことがある人ならば、それがどんなに感動的なことかわかるはずだ。
強制するのでも、なだめすかすのでもなく、ウマはただ、喜んで調教師とともにいようとするのである。
動物を敬愛する人にとって、動物が自らの意志であなたに近づき、あなたが伝えようとしていることを理解し、
あなたが彼らを傷つけるようなことをしない、と信頼してくれるのは、この上ない喜びだ。
ウマと犬はどちらも、そもそもは集団の一員として生活する動物である。
彼らの行動様式は、その集団と意思を疎通させる必要から発達したものであり、集団に属することによって、
その集団による保護をはじめ、さまざまな利益をこうむる。
ある意味ではこの、集団に適合する能力があったがために、人間は彼らを人間という集団に強制的に参加させることができたのであって、
私たちが自然な行動と報酬を使って動物とコミュニケーションをとることを学ぶ以前にも、強制という方法はある程度は機能していた。
ところが、これが猫となると話はまったく違う、と、猫好きなら誰もが言うはずだ。
猫は、その祖先であるアフリカヤマネコからほとんど変化していない。 単独で狩りをし、他の猫と一緒にいる必要もない。
ある程度の社交的な交流を楽しむことはあるかもしれないが、それはそうしたいからするのであって、必要だからではない。
昔ながらの犬の訓練法を使って猫を命令に従わせようとしたことのある人は、からっきしうまくいかなかったことだろう
−−猫には、一緒にいて楽しくない関係にとどまる理由は何もない。群れの仲間に助けてもらう必要がないのである。
それでも、猫はエジプト時代から私たちの周りで暮らし、猫と人間の関係は互いにとって有益なものだ猫は害獣をやっつけてくれるし、
私たちは猫と一緒にいると楽しいのだ。けれども私たちは、犬と違って、猫を思い通りに作り変えることは決してできなかった−−
肉体的にも、精神的にも。猫はきわめて自立した存在のまま、それでいて私たちの家、私たちの生活の中に深く入りこんできた。
そして私たちはそのことを、まるで当たり前のことのように思ってきたのである。
あるとき私たちは、自然の中の猫のふるまいに注目しはじめた。野生のネコ科動物だけではない。
野良猫も、家の中や私たちの膝の上ではなく、外の庭にいるときの飼い猫たちもである。
ホース・ウィスパラーと同じように、人々は猫という動物の全貌を明らかにしていった
−−喉をゴロゴロ鳴らす、フワフワした赤ん坊としてではなく、驚くべき狩人であり、
非常に興味深いコミュニケーション・テクニックと、尊厳も能力も失うことなく、
猫同士の付き合いと人間のペットであることを行ったり来たりする力を備えた動物として。
現代の生活の中で私たちは、猫が私たちにより近いところで暮らすこと、そして、都会の、あるいは郊外の家の周りで、
たくさんの猫たちと縄張りを共有することを、やむを得ず強制してきた。
屋外の縄張りだけでなく家の中でもときどきマーキングをしてしまったり、
樹の幹の代わりに家具で爪をといだりといった問題も時にはあるものの、猫はよくそれに適応した。
猫の行動を研究する学者の最近の世代は、ペットの猫を理解し、彼らの存在を最大限に楽しむためには、
彼らの行動にはどんな動機があるのかを知ること、そして、家の中が縄張りであるという安心感と、
同時に人間に所有されているという限界の中で、彼らにとって自然な行動がとれるようにしてやることが大切であるのを知っている。
猫と会話するのは、何か問題が起きたときにももちろん役に立つ−−問題の大半は、猫にとっては自然な行動が、
(私たち人間にとって)「不適切」なところで起きてしまった、ということであるわけだが、
それは実は、何か困ったことがある、と猫が知らせている信号なのだ。
ホース・ウィスパラーのように、私たちは自然な猫の姿を観察し、手を差し伸べなくてはならない
−−私たちを怖がらず、家の中では違った行動をとることができるようにし、再び調和のとれた状態が戻ってくるように。
飼っている動物に対する見方も、彼らが家の中での自分の立場に不安を感じているときにどうすれば助けてやれるかについても、
私たちの知見はずいぶん進歩した。さらに新しいことを学ぶにつれてそれはまだ変化し続けているが、
舞台は整った−−動物と対話するという手法は定着し、何が私たちのペットを突き動かすのか、それをよりよく理解できるようになること、
そして彼らともっと充実した関係を築けるのが楽しみである。
この本は、猫という動物がどのように機能するか、そしてそのことを、日常的に、あるいは何か問題が起きたとき、
猫と人間が絆を築くのにどう役立てられるのかを説明している。猫についてもっと知れば、あなたは猫がますます好きになるだろう
−−そのふるまいや能力ばかりでなく、これほど上手に、実りの多い形で私たちとともに生きることができる、という事実ゆえに。
さあ、猫との会話を始めよう。
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