| 吉田太郎[著] 2,000円+税 四六判並製 336頁 2009年10月刊行 ISBN978-4-8067-1390-6 人口減少、超高齢化、経済の衰退に直面する日本が参考にするのは、質素でも、ビンボー臭くない、キューバの「没落力」だ! 明治維新以来、「坂の上の雲」を目指して登り続け、世界第2位の経済大国と1億総中流を達成した日本は、いまや米国に次ぐ世界第2位の「貧困大国」だ。食品偽装、国土荒廃、医療崩壊、学力低下、派遣労働者の大量失業・・・ どこを見渡しても、希望のカケラすら見えない。だが、経済成長は豊かさとは直結しないし、モノの豊かさは幸せとも違う。 有機農業で100%自給。高い教育水準と豊かな文化、助け合う地域住民、何よりも大切にされる子どもたち、あくせく働かなくても不安なきフリーター生活。次々と訪れる外国人たちが口をそろえて「モノは貧しくてもこの国には貧困がない。生まれ変わるのであれば、この国の庶民に」とまで賞賛したのは、キューバではなく、150年前のニッポンだった。 まもなく人類はピーク・オイルを迎える。大量の石油消費を前提とした経済成長もトリクルダウンも、もはやない。となれば、求められるのは、血を流しての資源争奪戦ではなく、モノに頼らずに幸せに暮らすためのノウハウ、いわば「没落力」だ。 しかし、成長のための提言はあっても、安全な没落のためのマニュアルはない。となれば、すでに超低空飛行をしている「没落先進国」にヒントを求めるしかないだろう。 3世代詰め込みのウサギ小屋、低迷する食糧自給率、慢性的なモノ不足と後を絶たない亡命。キューバは、お世辞にも格差なき有機の楽園とはいえない。だが、家が雨漏りはしてもホームレスはただ一人としていない。竹を利用してエコ住宅を建て、農村では農民たちが種子を交換しあって自給に励む。度重なる巨大ハリケーン来襲にもほとんど死傷者を出さない防災対策と、文化豊かな国づくりをキーワードに、首都ハバナは数世紀前の景観を復元した歴史博物館となった。 都市農業、環境、医療、教育と、キューバの先進優良事例を描いてきたキューバ・リポートの第5弾は、江戸期の日本を参照しつつ、キューバのマイナス面に光をあてて日本を逆照射する。 モノは貧しくても貧困なきキューバは、人びとが尊厳を持って生きられる国へと日本が優雅に没落していくための指針となるだろう。 |