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森の健康診断
100円グッズで始める市民と研究者の愉快な森林調査


蔵治光一郎洲崎燈子丹羽健司[編]→著者一覧はこちら


2000円+税 四六判 208頁 2006年4月発行 ISBN4-8067-1326-0

森林と流域圏の再生をめざして、
森林ボランティア・市民・研究者の協働で始まった、
手づくりの人工林調査。
全国にさきがけて行なわれた
愛知県豊田市矢作(やはぎ)川流域での先進事例と
その成果を詳細に報告・解説した
人工林再生のためのガイドブック。

植生調査票、安全の手引きなど、 全国どこでも使える
「森の健康診断」マニュアル付き

書評再録 読者の声
【主要目次】

はじめに

第1章 森林の危機と「森の健康診断」

日本の森が泣いている…………………………………………………………蔵治光一郎
「森の健康診断」の多様な意義…………………………………洲崎燈子・蔵治光一郎
「森の健康診断」の可能性−−素人山主と森林ボランティアを結ぶ………丹羽健司


第2章 矢作川流域における「森の健康診断」の実践
    −−森林ボランティア・研究者・行政の協働

「矢作川森林の健康診断」の概要………………………………蔵治光一郎・洲崎燈子
ドキュメント 矢作川森林の健康診断…………………………………………新見克也
健康診断の結果から見えてきたこと……………………………………………洲崎燈子
矢作川の森林の未来像−−産官学民の協働に向けて…………………………原田裕保

【コラム】
 健康診断項目が決まるまで……………………………………………………河野富夫
 健康診断を安全に行なうために………………………………………………山本薫久
 市民の健康診断と連携した検証方法を探す……………………田中 蕃・阿部晃久
 森づくりと木づかいをつなぐ市民参加型調査………………………………木俣知大
 森林ビジネスの可能性…………………………………………………………菅野知之
 スローライフがつなぐ都市と農山村…………………………………………山本薫久


第3章 流域圏から見た「森の健康診断」−−森・川・海の連携をめざして

流域圏の思想と「森の健康診断」……………………………………………蔵治光一郎
流域圏の社会化、環境化、NPO化の時代………………………………………古川 彰
海から見た流域と市民参加………………………………………………………清野聡子
【コラム】
 進化する「森の健康診断」
  −−「土岐川・庄内川源流森の健康診断」より…………………………丹羽健司
 山から海までラムサール−−伊勢・三河湾流域ネットワーク……………辻 淳夫

おわりに

索引
用語解説
巻末資料

【はじめに】

 近年、森林のもつ防災や水源涵養、温暖化防止などの機能、いわゆる公益的機能が以前にも増して注目されるようになりました。日本の国土の3分の2を占める森林の4割は、木材生産を目的として植えられたスギ、ヒノキなどの人工林ですが、林業による利益が見こめなくなり、後継者が不足していることもあって、所有者が森林を手入れする意欲を失い、手入れされずに放置される人工林が増えているのが現状です。人工林が放置されると、土砂の流出や水源涵養機能の低下をもたらし、災害にも弱い森林になる恐れがあります。それを憂える都市の一般市民が森林ボランティアとして山に入って作業することもありますが、人工林の手入れ不足問題の解決に直接つながるような活動にはいまだ発展していないのが現状です。
 本書では、中〜下流域の市民の「上流域の森林を再生したい」という気持ちを人工林手入れ不足問題の解決に結びつけることをめざした、「森の健康診断」という新しい取り組みを紹介します。これは一般市民が熟練した森林ボランティアの案内で山に入り、科学的かつ簡便な手法で森林の混み具合や植物の調査を行ない、研究者がその結果を解析して、効果的な森林管理のための提言につなげていくという試みです。
 この事業の最大の特色は、市民が森林に親しみ、自分たちの手で森林を評価する体験の場を提供すること、山林に関心の薄れた山主たちの注意を喚起すること、多数の参加者による広面積・大規模な調査によって今後の人工林の管理計画にいかせるようなデータが得られること、そしてその計画のなかで市民・行政・研究者の果たすべき役割も明らかになっていくといった、多面的な意義と効果をもつということです。これまでばらばらだった市民、行政、研究者、森林所有者の活動が有機的に連携することで、力を合わせて人工林問題の解決に立ち向かうことができます。「森の健康診断」は日本全国に共通する人工林問題解決の、切り札の一つになりうるといっても過言ではありません。
 第1章で、日本の森林をめぐる問題を概観し、日本のどこでも適用可能な方法として考案された「森の健康診断」について紹介します。第2章では、2005年6月に愛知県豊田市の矢作川流域で実際に行なわれた「矢作川森林の健康診断」の様子と結果をレポートし、その有効性を具体的に検証します。第3章では、「森の健康診断」がたんに森林の問題解決だけにとどまらず、河川や沿岸域の漁業まで含めた「流域圏」の総合的な管理につながっていく可能性について紹介します。
 本書に書かれた一つの試みが、やがて全国に広まり、日本の人工林手入れ不足問題が確実に解決に向かって動き出すことを確信しています。

蔵治光一郎
洲崎 燈子
丹羽 健司